田園調布生活 散歩のつづき

社団法人から呼び出しが来た。まるで査問委員会だ。俺が付けた外階段から、隣の庭が丸見えになるので、

東側にある外階段を取り壊して、西側に付けろってこと。

びっくりこいたなぁ。お願いするなら分かるが、上から目線でものを言うんだもの。
7~8人がそれぞれ、俺のデータをぺらぺらめくりながら、それを見て質問するわけよ。

こっちは柿を取ったことで怒られる思っていたから、外階段の話なら、スーッと気が楽になり、

しかも、俺の特技は年食った人とすぐ仲良しになれること。呆けているほど、仲良くなるのが早い。

この7~8人は見るところ、呆けちゃぁいないようだが、年を食ってるから、もうこっちのもんだ。

声にも張りが出て、元気なもんだ。
田島陽子の15年後みたいな婆さんがハンカチで口の周りのヨダレをふきふき質問するのよ。
「外階段作って、屋上で何をなさるんですか?」

「サウナをつくるのよ」

「サウナといったら、裸になるんじゃぁありませんか」

「当たり前だよ、裸になってオテントウ様に金玉の裏ぁ干さなきゃぁ、仕事になんないじゃないのよ」

「んまぁお仕事なさるのですか?」

「蒲田じゃぁ金玉の裏ぁ干すことを仕事って言うのさ」

「屋上でお仕事なさると お宝が見えてしまいます」

「金玉ださなきゃぁ どうやって干すんだよ」

「わぁ」  「きゃぁ」

別のばぁさんが「まあ金玉のハナシばかりしないで あらら 金玉だなんて言ってしまいましたわ」

「植木で目隠しをしていただけませんか」

「三丁目には 田園調布憲章がありまして 三階建は建てられないんですのよ」

「鈴木その子さんも 屋上にプールを作るとおっしゃってましたが やめていただきました」
「リサイクル業ってどのようなお仕事ですか」

「つぶれた食堂の冷蔵庫を磨いて売るのよ」

「かわったお仕事ですねぇ」
「外階段ですけど」じいさんと婆さんだから話が飛ぶは、珍しい男を珍獣をみるように、

そうかといって意地の悪そうな人がいないのは、せこい生活を してないからか。
「外階段ですけど」

「ちょっと待ってくれ。俺が、いやわしが作った階段を目隠ししてくんないか、なら話はわかる。

それを取り壊して、別んとこへ作れたぁ。ちょこっと 無理がアンじゃぁないかい。いいかい。

ようく聞いてくんな。蒲田辺りじゃあ、銭を積んで、このお金で階段の位置を変えていただけないでしょうか。

こうだぜ。それを大勢で取り囲んで、庭を見られるからって、社団法人だって、そりゃあごリ押しってもんだよ」
「陽子さん、この冷蔵庫屋さんの言うことも もっともじゃないの」

「冷蔵庫屋じゃぁない」

「あらごめんなさい」

「みんなの見ている紙には何が書いてあるんですか,このハナシはあんた達に道理がないから、

そうですね、とはいえないが、三丁目の環境を守ろうと言う姿勢には賛成だ。

おかしな住人がいたら、俺に言ってくれよ。こんな素晴らしいフルーツパークは他にはない」

「フルーツパーク?」

「あゎゎゎっゎわ」

「独り言独り言!」
てなわけで田園調布老人会も和やかに閉会となった。
翌日から隣の婆さんが庭にいる時に塀の上から首を出して、目一杯明るい声で

「おはようございまあす」

婆さんどっから声がするのか解らんもんだから、きょろきょろして、

塀の上の俺の首を見つけ、すっとんきょうな、ふるえがかった声で

「おはよ~う ごぜいま~す」

何日か続けて 首を出して、「おはようございまあす」をやってるうちに、婆さん庭に出なくなっちまった。