幹部の親族のお通夜。
葬斎場にはテンポスの社員も、10人くらいいた。知り合いが少しでもいると、ホットして、受付に向かった。
おそらく親族と思われる人一人と、テンポスの社員が一人、受け付けにいた。
其の葬祭場は葬列者の席と受け付けの間に、さえぎるものが無かった。
テンポスの社員が気を利かせて、葬列者の一番前にいる幹部社員に知らせにいった。
静かにゆっくり、いけばよいものを、足早に、せかせか行ったもんだから、何事が起こったのかと、
幹部社員が立ち上がって、俺に向かって一礼した。其の方を、全員が見た。
「あの人が、辰夫の会社の社長さんだ。」 「うわさどうり、立派な人だねぇ」
「あたしゃぁ、上場会社の社長さんて、初めて見たよう」
「長生きは、するもんだ、」 「ありがたい、ありがたい」
そう思われたんじゃあ、期待にこたえなきゃぁ。
ゆっくりみんなを見回して、ゆっくり黙礼をした。まあまあである。
だけど、形式とか、格式とか、式関係が苦手で、見掛け倒し、結構緊張する。
本当なら、こっそり行って、誰にも見つからずに、帰ってきたかった。
其れをあのやろう、仕事の時はまるで気が利かないくせに、余分なことをするもんだから、
みつっかっちまって、全員の注目を、浴びちまった。
おもむろに、懐から、香典を取り出した。あれ!なんだかあつすぎる、¥7000まあ、いいか。もう一回ちらっ。
¥70000 なにぃ、7万!! 幹部とはいえ、影で会社の悪口ばっか言ってるやつで、
香典は7千円にしとけと、言っといたのにぃ。
そんなことで、頭にきているときではない。
受付帳の横に筆が置いてあるではないか。
俺は字が下手で、俺より下手なのは日本でも、弟しかいない。
しかも、筆なんか、50年前の中学の習字時間以来、困った!
鉛筆と違って、帳面から手を離して書かなければならない。
衆人環視の中、筆の達人らしく振舞わないと、この緊張を見破られてしまう。
「以外に気が小さいよ」ってことが、ばれてしまうと、株価に悪い影響を与えてしまう。
おちつけぇ、おちつけぇ、自分に言い聞かせながら、テンポスバスターズと書いたつもりが、
手が震えて「チンポスバスターズ」と書いてしまった。
社員の目が点になり、手で口を押さえて、クックック、こらえきれない様子で、
クックック、隣の受付も一緒になって、クックック。
香典帳に縦線入れて、書き直すわけには行かない。
そのまま、帰ってくれば、気付かない人もいることをいることを願って、チンポスにしておいた。
社長は柄が悪いとは聞いていたが、ついに、チンポスにしてしまった。