誘拐 その後 (最終回)

結局駅まで俺がの載せて行くことになった。
康夫は先ほどの ニタニタした余裕もなく、黙りこくっている。
俺は、気まずいのが嫌いで、ハワイ行きの飛行機で、隣の席のビジネスマンに、ハイテンションで話しかけていたら、ややあって、寝ますからと言われ、かえって気まずくて、黙りこくってしまったことがあるが、
この場合はそんな事はなかろうと、「550万渡した時にはよっぽど資金繰りがくるしかったんだ。」って話しかけてるうちに、京急の糀谷についた。
もう少し聞き出したくなって。蒲田駅まで送ってくことにしたが、自宅に泊まることになっちまった。
風呂から出てきて「マア一杯」 ビールも最初は遠慮がちだったのが、康夫も殺される心配もなくなったら、元々、気のいいおっさん。ベラベラ、聞きもしないことを喋り出した。
俺は当時コップ一杯で、出来上がってしまうくらいだったので、
「もう金なんか返さなくたっていいから」なんて、馬鹿を言っては一人で大笑いをした。
呑める康夫は、手酌でやってた。1時を回った頃、奴も相当のんだと見えて、
「森下サーん 」間延びした言い方で、「弟が田無で工場をやっている。前の会社で使っていた旋盤、ベンダー、プレスをそこに持っていって有る。買った時は5000万近くした。今売っても2500
万くらいにはなる。どうだい、それを300万で買わないか!わしには、100も貰えればええよ」
確かに「村山精工」には凄い高そうな機械が一杯あった。
康夫は会社が潰れる前に、代金の1/3も払ってない工作機械を隠して持ち出して、あとの支払いをしらんぷりして、弟に使わせていたんだ。
「何故そんな高価な機械を、安く俺に売るのよ」
「プレゼント!」
「プレゼントぉ!聞いたことないけど嬉しいぃ~!」と言ったかどうか忘れた。多分言ってないと思う。
「明日見に行こう」と俺はたたみかけた。
「先に金くれ」「馬鹿こくな!」ここは冷静だった。
「うちの工場に運び込んだら、払うよ。誰に払うんだよ。」
「田無の工場のオーナー」
「その人に300万払えば良いんだな。」
運送会社3社から見積もりをとったら、西濃運輸が一番安かった。有名だし そこに頼んだ。しかし
1トンも2トンも有る機械の搬出が下手で(と言うのは、我々の作った洗浄機でも、大きいものは5メートル、重さも1トン超えることは度々あって、自分達で、搬入をやっていたので、いささかの重量物搬入のプロであった。)
工場から運び出し方も危なっかしく、フォークリフトの使い方に至ってはまるで素人。
「あんた達ぃ!初めてだろう!」
奴らも、ことここに至ってしらばっくれるわけにもいかず「はいそうです」などと言いやがる。
コンピューター制御の2トンを超えるシャーリングを、二台のフォークリフトでトラックに積み込もうとして、持ち上げたものの、バランスが悪くて、あっあっあーというまに、
1メートルの高さから、ガシャーン。
制御盤の中に、フォークの爪が突き刺さるは、落っことしたシャーリングはひん曲がって、1800万が、瞬時にパー。
そこは大企業「西濃」 所長はすみませんといいながら落ち着いている。保険に入ってますから、全額弁償しますときた。
二日にかけて、搬出 搬入、破損が終わり、「KyoDo」の工場も設備だけは揃って、見た目には良くなった。
「KyoDo」の前に羽田工場を借りていた「大華工具」と言う会社は、戦前は中国に1500人もの従業員がいて、日本でも3階建のコンクリートのアパートに50~60人住まわせていた。
でかい運動場では、近所の人もいっしょになって、運動会をして、色々食べさせてくれたもんだと、80才近い我々の借りている工場の家主が言った。
大華工具は、だんだん縮小して、「KyoDo」と入れ替わる頃は35人しかいなかった。
35人が出てってあと7人が入ってきた。
我々の工場は、170坪の建屋に、設備がほとんどなく、7人のうち、営業マンが出てしまうと、中には4人しかいなくなる。170坪に4人。
家主は我々がいついなくなるかと心配して、しょっ中見にきていた。
そんな中に、壊れたシャーリングをはじめとして、大型機械が続々入ってきたもんだから、我々以上に80才が喜んでくれた。
翌日早速、康夫と田無のオーナーが金を受け取りにきた。
小切手を切ろうとしたら、康夫が、「わしは、逃亡中だから、現金にしてくれ」と言う。田無も現金がいいと言う。
勧業銀行に一緒に行き、げんきんをしはらった。
晴れて俺も、設備の入っている一人前のメーカーになったような気がした。
シャーリングは保険で直してくれとの、西濃の指示により修理屋の見積もりをとった。
高いところで780万安いところで520万。西濃に聞いたら保険屋をいかせるので直接話し合ってくれとのこと、なるべくその件には触れたく無いようであった。
3~4日したら、田無の工場のオーナーを名乗る男が、俺のところの機械を黙って持ち出してどうするつもりだと言って来た。
康夫が、連れて来た田無のオーナーに支払ったと説明したが、今度の田無のオーナーと言う人は、康夫から買ったと言う契約書を見せて、あんたは康夫に騙されて、分けも分からぬ人に金を取られたんだ。
この機械は返してもらうと言い張る。
どう見てもこちらに分がなさそう。幾らなら売ってくれるかと聞くと。「1000」万。
とても払えないので、悔しいけど持っていってもらうことにした。
翌日、幾らなら払えるかと言うので、気落ちしてるし、買う気も無いので、300万と言ったらそれで良いと言う。
今にして思えば、康夫が、全て仕組んだに違いない。と分かるが若かった。
300万払った。支払ってから田無の持っていた契約書は本物らしかったが、本人確認をしてなかったので、また別の人がくるかもしれぬ。
俺の弟は、リース会社の熊本の所長をしていて、中古機械の買い付けはしょっちゅうやっている。
事情を説明したら、リース会社から借りてることにしろ、ダイヤモントリースのシールをすぐ作って、機械に貼り付けろ、「ダイヤモンド」ではなく、モントにしろ。三菱のマークも、隅の方をけづって、微妙に本物らしくしておけ。
誰か言いがかりをつけにきたら、リース会社に言ってくれとだけ言え。どこの会社かいろいろ聞いてきても、奴らはグルに決まっているから、「そんなことを説明する義務はないといえ。」
いやぁ 「蛇の道は蛇」とはうまいことを言うもんだ。
結局それ以後は誰も集金には来なかった。
機械の修理は、保険屋の指示で、一番安い520万のところにすることにした。
偶々、工場に設備を搬入しているのを見ていた近所の電気設備屋が、シャーリングを落っことした時にいて、制御盤の修理なら安くやってあげるよと言って来た。
170万で制御盤から、シャーリングまで全て直してくれる。
それは安くて保険屋も喜ぶと思い、許可を得ないで近所の電気屋にたのんで、作業にかかっているところに保険屋が来た。近所の電気屋が170万でやってくれるというからそこに頼んでやってもらっていると言ったら、
「其れはまずい、決定して有るものだから、520万のところでやってもらえ」と言い張る。
「そんなわけに今更いかない」
「では、その電気屋に私が話をつけてくる。10万位余分に電気工事屋に払ってくれ。コンサル料として、会社に20万払ってくれ」
「残りはどうなる?」
「それは私は知らない、「KyoDo」に520万入って来るから、森下さんは、電気屋に170+10会社に20払ってくれれば良い」
ははーん、520入って170と10を電気屋20を会社、残りの320はこっちのもんだ。
会社とは言うものの、支払ったのはその保険屋の個人名の領収書。
危ない話だが、弁護士に聞いたら「時効」
田無から環八を下がって羽田のあたりまで詐欺師ばっかし。
「KyoDo」は、行くところのなくなった村山の弟が転がり込んで来て、こいつが格段の技術があるもんだから、取引先がいきなり良くなって来た。国鉄山手線の電車のでかいモーターを洗う超高圧洗浄機とか、三菱化工機など、今迄の技術では到底作れない機械を受注できるようになってきた。
食器洗浄機だけでなく、超高圧洗浄機まで、造れる専門メーカーになって来た。
康夫とは、それ以来あっていない。弟は、3年もいないで消えちまった。
その間に技術は習得した。
一方ズーッと説得し続けていた俺の弟が来た。
全国に営業所を作り、ファンド会社をよんで、上場の準備を始めた頃、
28人の集団裏切りにあい。パソコンのデータを無茶苦茶にされ、警察はめんどくさそうにしかきいてくれなく、「KyoDo」は不渡りを出すところまで行った。
このシリーズになった途端、アクセスが増えてきた。
青春編はハリーポッターよりも、冒険談になるが、こんなこと書いていても、世の中のためになるとも思えぬが、尤も、今までのブログのどこがためになると思ってんだって言われると、トホホホ!