アルバイトを通じて何を得るか

あさくまの武蔵小杉店には、慶応の学生のバイトが何人かいる。

サラダバーの野菜を補充している若い店員に

「あんた、学生かい」

「そうです」

「ここでどの位働いてるんだ」

「もうすぐ2年になります。」

「働いて、何を得てる?」

「はあっ」

「バイトの給料はもらってるよな。」

「それ以外に、2年で何を得た。覚えたことはなんだ。体得したことはなんだ」

「はあっ」

「どんなつもりで接客してる?」

「お客様に気持ちよく時間を過ごしてもらおうと思ってます」

「ウーム、なかなかの答えだが、それは自分で考えたことか、誰かに言われたことか」

「店長にしょっちゅう言われてます」

2年間も真面目に働いていて、給料以外に得たものがないなんてもったいないじゃないか。

あさくまは、サービス業だ。お客様を席に案内するまでの会話、席ついた時マニュアル通りの会話考えもしないで2年間過ごすのと、気の利いた会話を工夫してみて、どんな反応が返ってくるか、お客様の名前を呼んでみるとか、雪の日の来店客に気遣いをして声をかけてみるとか、そうやってあさくまに来ていると、今日から人生が変わるよ。」

「ありがとうございます。やってみます。」

なかなか素直な女の子だった。

翻ってあさくまの店長は、フロアの担当者に何を教えているか。

マニュアル通りキチンと出来ているか、覆面調査の点数をもらえる様にやらせているにすぎない。

テンポスがあさくまを引き継いで7年。

13年連続赤字で179億が29億まで売り上げがダウンした。

2~3年は経費削減をキチンとやるだけで、赤字は止まった。

人件費を下げろ、安く仕入れろ!ロスを出すな!この繰り返しだった。

この段階を第一ステージ

ここんところ数年は、良いものを仕入れろ!その上で安く。

第二ステージだ。

この辺になると業者を選んで買い叩くだけでは、普通のものが安くなるだけで、良いものが安くは手に入らない。

仕入れ担当者が産地に出向き、生産者と向き合い、こちらの都合を押し付けるだけでなく、

一緒になって生産の合理化から、流通の合理化まで踏み込まなくては目的を達成できなくなってくる。

とうの昔に先進企業はバーチカルインテグレーション(生産から消費までを一貫体制で行う)をやっているが、あさくまとても挑む段階になってきた。

人手をへらしたうえで、サービスをよくするとなると、意識付けだけでなく、繰り返しのトレーニングが必要になる。

もはや、パート教育からトレーニングセンターの様相を呈して来ている。

第三ステージを睨みながら、第二ステージのトレーニングを続ける。

お客様のクレームの一番は焼き上がりが期待通りで無い。

レアを頼んだのに、中まで火が通っていた。しかも、二度も。このクレームを頂いたのが3週間前。

我々経営側の甘いところに、すかさず食い込んでくる。

客の目は鋭い。

チェーン店は、調理もホールもパート、バイトで運営している。

勢い、サービスレベルは、パート、バイトで満足できる範囲で良いと思っていた。

ここに甘さがある。

我々経営者は、パート、バイトを名人にしようとは思ってもみなかった。

やはりどこか、手を抜いた教育をしていた。

すかさずそこから水が漏れてくる。

「パート、バイトを匠にする」

そんなことは、思っても見なかったが、第三ステージに突入だ。

マニュアル通りキチンと接客をする第二ステージから、

パート、バイトであれ、あさくまの接客はすごいぞ、と言ってもらえるようにする。

高校の子供を持つ親に、バイトにいくならあさくまにいけ。と言われるようにする。

第三ステージのサービスは、ホテルオークラのフロアー長が見にくるようにする。

「極める」

責任持ってやるうちは、極める事はできない。

しかも極めるとなると、一生かかるかもしれない。