【法的観点からクレーム対応を考える】水上卓の法律問題相談室

事例

お客Aさん 料理を注文してからもう20分は待っている。どうなっているんだ!

従業員Bさん 申し訳ございません。すぐに確認して参ります。

Aさん おまえじゃ話にならない。上の人間を連れてこい。

Bさん 店長は不在にしております。

Aさん それなら店長と一緒に後でウチに来い。誠意を見せろ。

Bさん (心の声)どう対応したらいいんだろう……。

飲食店経営では、お客様からのクレームに直面することが少なからずあり、その対応に頭を悩ませている場合があります。そこで、今回はポイントだけとはなりますが、クレーム対応についてご説明いたします。

クレームとは、要求行為、問い合わせ、相談等に不満足な感情が加わったものと説明されます。

相手の不満足な感情をなだめる

まず大事なのは、上記のとおり、クレームには不満足の感情が入っているため、これを和らげ、冷静な状態で話ができるよう務める必要があります。

そのために、「ご不快な思いをなさったことについては誠に申し訳ございませんでした」等と言い、相手の感情をなだめる方法があります。ポイントは直接的に法的な責任を認めるような言葉を含まないようにすることで、これであれば法的な責任を認めたことにはなりません。もし相手が「責任を認めるんだな」等と言ってきた際には、「そうではありません」等と明確に言うことが大事です。

相手の要求内容を把握する

クレーム対応で最も大事なことの一つは、相手の言っていることが上記のクレームなのか否かを確認し、クレームであればその主張事実、要求行為がどのような内容であるのかを把握することです。

相手の要求内容等の把握の際に重要であることは、5W1Hを意識して要求内容等を出来るだけ細部まで確認することを徹底し、そのうえで、相手の主張する事実を裏付ける客観的資料の有無を確認することです。

クレーマーの中には、「細かいことはいい、誠意を示せ」等と言い、質問に答えないで自らの主張だけを不合理に繰り返す場合があります。そのような場合には、例えば、「こちらの質問に答えていただけないのであれば、これ以上の対応は出来ませんので、お引き取り下さい」等と毅然とした対応を取ります。それでも帰らず、さらにヒートアップして他のお客様や従業員に危害が及ぶ可能性がある場合は、警察を呼んで対応してもらうことを検討してください。

相手の要求内容等を確認した結果、相手が録音している可能性を前提に丁寧に説明をし、事実関係からみて主張事実や要求内容が正当なものには対応する必要があります。ただし、要求内容が正当な範囲を超えているものについては、正当な範囲で対応することになります。他方、主張事実や要求内容が不当なものについては明確に拒否をすることが必要です。

この判断は難しい場合があるため、そのような場合は即答せず、上司や専門家に相談することをお勧めします。

担当者を孤立させない

実際に対応する担当者は1人でも構いませんが(出来れば2人以上で)、担当者を孤立させないためにチームを組み担当者をサポートすることが必要です。

そして、組織として、どこまでなら応じても良いか等のラインを検討したうえで、担当者には充分な権限を与えるとともに、充分な待遇とすることが必要です。これは、必ずしも給料を上げるという話ではなく、正当な評価を与えることを意味します。

クレームに対しては「組織全体として立ち向かう」という意識が非常に必要です。

脅しに屈しない

相手が、「ネットに流す。通報する。訴える」など様々な形で脅してくる場合がありますが、事実を精査して対応を決めた以上はこのような脅しに屈してはいけません。「誠に残念ですが、ご納得頂けないのであれば仕方ございません」と言う等、毅然と対応し、裁判を含む公的判断を辞さないという心構えで臨みます。

相手の支配領域に入らない

クレーマーの中には、「自宅に来て説明しろ」等と言って自分のテリトリーに引き込もうとする人がいますが、基本的には応じない方が良い場合が多いです。

相手の自宅等に行くかどうかは、必要性・相当性の観点からその要否を判断します。

必要性とは、相手が指定する場所に行く必要があるか否かです。店内で起こった事へのクレームであれば、特別な事情がなければ店内で話を聞くべきで基本的には出向く必要がないことが多いです。

相当性とは、相手の指定する場所で話を聞くことが相当か否かです。最も要注意なのは相手の家です。これは賛否両論ある点ではありますが、少なくとも、事実関係の調査が済んでいない、対応の検討もできていない状態で相手の家に行くことは辞めるべきです。相手にとっては自分の土俵であるため時間も空間も自由に使え、さらにその雰囲気に飲まれて担当者が正常な判断が出来なくなる可能性が高いからです。

【執筆者プロフィール】

日本橋法律会計事務所 代表弁護士 水上 卓(みずかみ すぐる)

新潟県出身。仙台の法律事務所に勤務後、東京日本橋に事務所を開設。主な取扱業務は、企業側の労務問題等の企業法務、相続、不動産事件、一般民事・家事事件等。一般社団法人日本相続学会に所属し、山梨県等後援の記念事業連携の研究大会で講演を行うなど、講演・執筆にも注力。通知税理士としても登録。

住所:東京都中央区日本橋富沢町7−14岡島ビル8階
TEL:03-6661-0775

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