子供のころからサッカーボールを蹴っていた川口さんは中学生の時、小遣いでサイフォンを買いコーヒーを淹れてみた。喫茶店で飲んだものと違い、おいしくなかった。
「なにがいけなかったのか」
ネットもない当時、いろいろな人に聞き本を調べて何度も淹れ直した。そこから川口さんのコーヒー人生は始まった。最初の失敗がなかったら、こんなにのめりこんでいなかっただろうと川口さんは語る。
コーヒーにかかわる仕事がしたい。でも甘くなかった現実
新卒でオフィス向けコーヒー販売の会社に入社できたが、自信が持てる仕事ができなかった。当時は、大手も参入し始めた頃で、すぐに価格競争が激化していった。品質は二の次で安くなければ契約してもらえない。コーヒーの味も確認しないのに、他社との価格を比較された。売れないのも悔しいが、コーヒーを軽んずる消費者と売り手に嫌気がさしていた。
コーヒーの本当のおいしさをみんなに知ってもらいたい。
会社を立ち上げ夢を追う
豆を選び、自家焙煎し、営業をかけ、こだわりの豆を顧客に届ける
サラリーマンには5年で見切りをつけ、仲間5人でコーヒー販売の会社を始めた。共同経営だ。経理や請求業務も得意分野を分業して前途洋々に思われた。しかし共同経営にありがちな経営方針の迷走、信頼関係の崩壊により会社を去ることになる。
その後、仲間2人で、各自代表の会社を作り10年が過ぎ、心機一転、一人で出直すことにした。高品質豆の声を聴きながら焙煎し、コーヒーの品質に意識が高いお店を相手に卸し始めた。買い付けから焙煎・販売・請求業務まで全部一人でやる。焙煎機の熱とCO2でふらふらになりながら売りまくった。
しかし昔とは違い、納得がいく仕事ができ心は満たされていった。注文を受けてから焙煎するため、顧客からも喜ばれる。扱う商品はスペシャルティコーヒーだ。品質が高い分、価格も相応だが、“いい商品をいい顧客に”。当初の目的が達成され始めたのだった。
コーヒー伝道師は走り続ける
30年やってきてもコーヒーへの愛情が尽きない川口さんは、コーヒーに選ばれた人かもしれない。新型コロナ終息後を視野に、焙煎とテイクアウトだけだった会社に喫茶部門を創設する。豆の選別から焙煎そして提供まで。サプライチェーンの完成だ。そのために換気システムを増設して準備は整った。
少年時代に出会ったコーヒーのすべてを多くの人に伝えるため、川口さんはサッカー選手時代のポジションと同じくFWとして攻め続けるだろう。
―川口さん
「審査機構の得点が80点以上のもの。豆によってローストの深さを変えている。焙煎後は傷などがある豆を目視で取り除きます。高い豆には理由があるのです。」
(参考:スペシャルティコーヒー《SCAJ》の定義について/一般社団法人 日本スペシャルティコーヒー協会:生産国においての栽培管理、収穫、生産処理、選別そして品質管理が適正になされ、欠点豆の混入が極めて少ない生豆であること。そして、適切な輸送と保管により、劣化のない状態で焙煎されて、欠点豆の混入が見られない焙煎豆であること。)
記事執筆
光山健児(みつやま・けんじ)
1963年神奈川県茅ケ崎市生まれ。
20年のサラリーマン生活ののち、飲食店勤務を経て2014年ダイニングバーを開業。他店舗研究が高じて、神奈川県の飲食店を中心に取材・広報活動を行う。
写真キャプチャー
【入口とロゴ】
【焙煎直後のコーヒー豆】
焙煎直後の豆はかぐわしく、味も際立っている。
【欠損豆】
【熱交換型換気装置】
焙煎中は熱とCO2が発生するため、換気が必要だ。新型コロナ対応のカフェ営業も見据えている。
◇取材協力
川口重幸さん(代表取締役)
店名:COFFEE ROASTERS SHONAN(コーヒー ロースターズ湘南)
住所:神奈川県藤沢市大庭5431番地9