原点回帰日本回帰 、天晴レ日本

昔を懐かしむのではなくガンガン攻めていきたい、そう語るのは2019年12月にオープンした「天晴レにっぽん 大衆まめ皿酒場 いまや」の店主、野崎 均さん。そもそも発酵をコンセプトにしたのはなぜなのか?から始まり、話は飲食店が街を、そして日本を救うという大きな話へと発展していった。

そもそも発酵に関心を持たれたきっかけは何でしたか?

発酵に特化したわけではないんですけど日本の力強い食文化をテーマにした大衆食堂をずっとやりたいと考えていました。

でも具体的にどういう店にしようか、自分の中でうまくまとまらずいろんな人に相談したんです。すると皆さん、お米とか、味噌、醤油。そういうのを売り物にする店は絶対やめたほうがいいって言われて。というのも平凡なんですよ。お店のウリにならないって、みんなから反対されました。

でもどうしてもやりたくて、コンセプトをずっと考えてたら自分たちが食べてきたお米とか味噌とかって、本来もっと美味しくて僕たちのご先祖はもっと逞しかったんじゃないか。ということで先祖帰りするんじゃなくって、令和の時代にもっと攻めていこうと思いました。一見地味なんですけれども、日本人として大切にしたいものをこのお店から伝えていこうと決めました。

少し前の話ですが、インバウンドでたくさんの中国人が日本の炊飯器を買ってる光景をテレビでよく目にしましたよね。それで日本人ももっと美味しいご飯を食べたい、みたいなニーズはあったのでは?

確かに。ごはんだけでも結果的に差別化につながる気はしましたけど、ごはんが美味しいのを武器にすることにすごく不安がありました。

それでオープンしたのはいつでした?

昨年(2019年)の12月です。コンセプトは日本の食文化。やっぱり、日本のお米や味噌、醤油をウリにするので大丈夫かなとずっと不安でした。

でも、そのコンセプトでやろうと決心したきっかけはあったのですか?

妻の一言もありました。「あなたはいつになったらやるのよ」って。

(妻)いろんな方のアドバイスをいただくなかで、やっぱり譲れないっていうことだったので、「じゃあやっちゃいなさいよ」って言いました。

それでお店を始めて最初に取り組まれたのは何でしたか?

たまたまなんですけれども、この店の近くに麹とか発酵系でご商売されているお店があってその方達が地方の美味しいものを紹介してくれたんです。いろんな話をしているうちに発酵と言うキーワードが自分の中に生まれました。

それで日本の食文化から発酵へと変わっていったわけですね?

でも大衆食堂のイメージを壊したくなくて、あまりマニアックなお店にはしたくなかったんです。「あの店、どの料理も美味しいんだけれども、実はあそこのご主人、発酵に詳しいらしいのよ」という風に紹介してもらいたいなと思っています。入口は広くして実はそうだったんだよって言われる方が好きなんですよ。

つまり最初に美味しい大衆食堂がくるわけですね。

どこにでもあるような大衆食堂を作って、入ればそこは発酵ワールド。そんな感じです。

実を言うと、僕は江戸時代が大好きなんです。できることなら一度でいいから江戸時代に行ってみたい。江戸時代の食文化とか生活というのにすごく興味があります。あの頃の日本人が一番逞しかったんじゃないかなあ。食べ物は質素なんだけれどもすごくパワフルで。たぶん、お米や醤油そしてお魚なんかもすごく美味しかったんだろうな。そしてそれを食べていた人達ってパワフルでバリバリ働いていて。当時の人々の考え方とか、今とは全然違ってたんだろうなぁ、なんて。

美味しいご飯とか醤油、味噌は日本人の宝だと思うんです。だからもっと自分達のルーツに誇りを持って元気になってもらいたいなってそういう思いでやってます。

食の面から日本の良さをもう一度見つめ直す、みたいな?

そうですね発酵というコンセプトで。

石塚左玄さんと言う食育という言葉を作った人が「食が人を作る」と言ってましたが、これって凄いなって思いました。

「食は本なり、体は末なり、心はまたその末なり」と、心身の病気の原因は食にあるとした。人の心を清浄にするには血液を清浄に、血液を清浄にするには食物を清浄にすることである(wikipediaより引用)

あーやっぱり食べもので人は作られていくんだな、と。改めてこういう店をやってよかったと思いました。

やっぱり儲かるから飲食をやる、というのは違うのですね?

いろんな経営者の方とお話をさせていただきましたが、商売をやるからには続けなくてはいけない。続けるためには儲けなければいけない。商売とはリスクを背負ってるってことだからその分、儲けないと意味がない。でも僕はこれからの時代は自分が儲かるとか自分の店が他所の店より繁盛する。そうじゃないように思います。

綺麗ごとに聞こえちゃうかもしれませんが、みんなで協力して街が元気になり人が元気になりそして日本が元気になる。自分だけが元気になるというのはもう古いんじゃないのかなと思います。まだ駆け出し一年生が大それたことは言えませんけど。

実は、街を汚くしているのは飲食店じゃないかって思っているんです。街をきれいにする役割は飲食店にもあるんじゃないかな、というわけで街を綺麗にしていこうという活動も行っています。そしてなるべく強力洗剤を使わない、ゴミを拾う、そもそもゴミを出さない、厨房を汚さない。そんな取り組みを少しずつ始めて、オンラインセミナーもやって行こうと思っています。

飲食店とは美味しい料理を食べさせてくれるところ、非日常的な雰囲気を味わえるところ、そんなところが飲食店に行く目的、きっかけだったかもしれません。しかし、コロナをきっかけに日本をより良くする、街をより良くする。そんな役割を飲食店が担えば、これからの時代にしっくりくるんじゃないか、そう言うことですね。

そうですね。そのためにはゴミとか洗剤とか飲食店から出ていくものまで目を配れるような飲食店になりたいと思っています。でもそういう“意識が高い系”に思われないようにしなくちゃいけない。あまり表に出しすぎたら入口が狭くなっちゃいますから。

日常はもっと軽いノリで少しずつ広めていって、徐々にスタンダードになっていく。そういうやり方がいいんじゃないかと思います。だって知り合いの飲食店にいい洗剤があるよ、なんて言うと「変な宗教を始めたんじゃないか」って言われましたからね。洗剤一つ勧めるのにこんなにハードル高いんだって思いました。

だから発酵する時に菌糸が自然と伸びていくように、無理に人の肩を叩いてこれを使えって言うんじゃなくって、もっと自然と広まっていくような。まあコロナのように、目にも見えなくって自分が罹っているかどうかも分からない、でも気がついたら周りに感染させている。これって最強の広め方ですよね。コロナに学ばせていただきました。

大衆豆皿酒場とは、テンポスさんで揃えた器が好評だから。非日常の演出ですね。

記事:スマイラー特派員
橘田純一(テンポス湘南店)