売り上げ毎月ゼロ行進。最早これまでか!

ジャガイモの花が咲き、蝉が鳴き始めても、相変わらず売り上げゼロ行進。
この頃になると、頑張ってみようという気持ちは失せて、新聞の転職ページを読みあさり、
鬱になり朝礼が終わるとアパートに一直線、上着とズボンを脱いで布団に潜り込み夕方までじっとしていた。
2ヶ月も布団にもぐっいると、飽きてきて
そのうち#中小企業診断士の資格を取ろうと、勉強を始めた。
昼飯は教師をやってる家内の作ってくれた弁当を食べて、資格の取得の勉強をするつもりが、眠ってばかりいた。
たまにはセールスに回ってみるものの、声に勢いがないから、デモ 貸し出しが一つも取れない。
訪問先のスーパーの入り口に、一坪程の小屋で焼き鳥を売っているオッサンに、弟子にしてくれと頼んだ。
同級生だった家内に相談すると、「やってみたら」と返事はそっけない。
なんだか呆れていても阿呆らしいと口に出してないだけで、空気は伝わってきた。
暑い季節なので、夜になると久能海岸は、カップルの車がいっぱいになる。
家内を乗せて現地視察をして、夜だけのカレーを売ってみようと言うと、
「いいけど、夏だけだよ」と相談に乗ってくれるふうもない。
気持ちは袋小路に入り込んで、行き場のない鬱鬱とした日が続く。
踏ん張ってセールスに出てみたがものの4~5軒も回るとやる気がなくなって、神社の境内で昼飯を食おうと、ブランコをゆっくり揺さぶりながら、弁当の蓋をあけた。
ユラユラさせても、足は地べたに付いている。見るともなく見ると、蟻が首を振りながら一生懸命に登ってくる。
一匹一匹が、足なんか登ってきても餌はないのに、首を振って上がってくる。
俺はこんな程度の悪い秤など売れるわけないなどと、言い訳をつけて毎日サボってセールスに回らないで、仕事があるのに朝早く起きて家内が作ってくれた弁当を食っている。
何という情けない男、
結婚の申し込みに行って反対された義父に、「絶対に幸せにします、約束します!」
と言った男が、仕事をしないで、ブランコに揺られながら、家内の作ってくれた弁当をくっている。
何だよこの男は!
足元にポタポタ涙が落ちてきて、口の中の飯が飲め込めない。
そのうちにむせび泣いてしまった。
かといって翌日から頑張るわけでもない。深い泥沼にはまり込んでしまったようだ。

あとあと、30年もしてから家内にその時の気持ちを聞いたことがある。
「カレー屋をやるとか、焼き鳥屋はどうかとかいってた頃、毎日弁当作りながらどう思っていた?」
「私は働いていたし、2人が食べるには困らないから、ふーんって思ったくらいだよ。」
太っ腹な女と結婚してよかったよ。
それから今に至るまで、何回もどん底になり、大学4年3年1年の子供達に、もう学費は払えない、自分で稼ぐか、退学せよ、アパートも引き払って全員自宅から通え、といった時もあった。
そんな時も、泣き言一つ言わなかった。
俺は根性なかったなぁ、家内が同級生でよかったよ、年下だったら合わせる顔もないもの。
今になると 男は命をかけて家族を守り、国家のために命を捨てる覚悟が必要だ!
なんて格好の良いことを言えるが、
俺って男はこんな程度よ。とほほだよ!まったく!
続く