森下篤史
金吾は俺より一級下の大学の後輩72歳
山登りを一緒にやって、山小屋で泊まることもある。
愚痴っぽいことを言ったことがない。
山登り3組の夫婦で忘年会をした。
いつもあっけらかんとしている峰田の奥さんが、
「ねーねー知ってる、金吾さんの奥さんは、3年前に家出してたんだよ」
「えーっ」
「金吾!そんな事一回も言わなかったじゃないかよ」
「そのうち帰ってくると思ってさ」
「荷物まとめて出てったのか?」
「週に一回とか、10日に一回とか、帰っていた。」
「なんだか変な家出だなぁ。ホテルにでも泊まってたのか」
「アパートを借りて、パートで経理やってたら、景気が悪いってんで追ん出されて、1年半で2回変わったらしい。」
「働いていたんだ」
「聡子さん、何が面白くなかっのよ。」
「居場所がなくて、張りがなくなって。」
「金吾は、国の年金と企業年金で70万以上毎月あるよな。その金は全部金吾が管理していたのか?」
「いや 俺は面倒くさがりだから、金は全部女房に任せている。」
「子供が不良か?」
「長男は会計士だが、次男が引きこもり」
「何才よ??」
「26」
「金吾!大企業の本部長でやってたバリバリのお前の子が、引きこもりかよ」
「何回か言ったんだけど、女房が、会社がこの子に合わないのよ。とか言ってそのままよ。」
「そのままって、子供の教育しないのかよ。」
「まぁ女房の方針でやってきた。」
「聡子さん!その子に問題かあって、家出をしたの?」
「ううん、なんだか虚しい日が続いて、何もかも嫌になったの。」
「呆れかえるなぁ!」
「1年半も好き勝手していて、なんで戻って来たのよ」
「それが、時々もどってくると、歓迎されもしないし、無視されるわけでもなく、今まで通りって感じで、金吾さんと、克彦の会話に私がいなくても、困った事がないようだし、このまま外にいると、戻る時期を失いそうな気がして、その上この歳で就職してみると、学歴なんて意味もなく、ただのおばさんなのよ。仕事も続けるのは大変なのよ。」
「当たり前だよ。何言ってんだこの歳になって、アホの極みだよ」
「それにしても金吾!!お前も大した男だなぁ、この10年、愚痴や不満を聞いたことがない。女房が家出しても、泰然自若!」
知足安分ってコレを言うのかなぁ
ビジネスアスリート 森下篤史