誘拐したことが有る。時効

今を去ること28年前。
コンベアー式の大型洗浄機メーカー「KyoDo」を創設して4年。
新製品開発を「村山精工」に委託した。
村山兄弟は中々の技術者で、社員は10名程であったが、納入先は小岩井農場とか、雪印とか一流会社が多かった。
それだけ技術力を買われていた。
我々の「KyoDo」は真似して作ったコンベア式の食器洗浄機だけでは、市場は小さいし、先細りは目に見えていて、新製品開発を社内でやってはいたが、長靴洗浄機、生ゴミ処理機、満足の行くものはなかった。
晴海のホテルレストランショウで、「村山精工」の圧力50キロを出す超高圧洗浄機を見てからは、
何回も通って、「KyoDo」ブランドで作ってもらえることになった。
大型容器洗浄機を展示会に出すために、発注した。
「KyoDo」は社員が7人しかいない。
信用かないので、「村山精工」は、550万全額先払いでないと、作ってくれない。
ところが、550万支払っても、中々製造に入ろうとしない。しょっ中工場に行き催促したが、ある日村山兄弟が消えてしまって、事情の分からないおっさんが、かたずけをしている。
550万持ち逃げされたと分かる迄に、10日も必要だった。
こっちも会社を作って4年足らず、資金の余裕も有るはずもなく、仕入先に事情を話してペコペコ謝り回った。
2年経って、取引先の人から、村山社長が四日市で「北斗工業」と名乗って工場をやっているらしいと聞きつけた。
電話帳で調べたらちゃんと出ていたので、「佐川急便ですが、そちらに村山康夫さんはいらっしゃいますか。」と聞いて見た。居るいる。
今取締役をやっている阿倍伝事がまだ21歳位。奴はデブで85キロくらいあったので、闘わせるのにはちょうど良かった。
「伝事ぃ、今から自宅に戻り、車ん中で一晩空かせる服装をして来い!」
「へい」ハタチやそこらで、何がなんだか質問する間もなく「へい」と返事をして出てった。
俺も家に帰り、毛布、タイガーポット(中にはカルピスに牛乳を入れて氷こいつが上手いんだっ)双眼鏡、ロープ(村山康夫を縛って連れて来る)、変装用野球帽(変装にはならなかった)リポビタンD4本(伝事に3本呑ませる)
大田区の会社を出たのは4時をすぎていた。
心配そうに伝次が聞いてきた「ロープでしばれるんですかね~」
「其のためにお前を連れてきたんじゃないか、頑張れよ!」
途中で、夜食用と、翌朝の分のパンを買った。長細くて中にクリームが入って上に黒くチョコのついたやつを買った。
「伝次ぃ、何でも食っていいぞ!何が食いたい?」
「食いたくありません、何でもいいです。」
「食っとかないと、いざっつう時力が出ないぞ」
「いざって何をするんですか」
「康夫の会社に乗り込んでって、縛り上げて連れて来るんだよ」
「突撃隊ですか俺が!」
「普段役に立たなかったが、こんな時に使えるとは思っても見なかったな~」
「社長も突撃するんでしょ?」
「お前な、二人して乗り込んでみろ、相手がびっくりこいて騒いだらヤリにくいだろっ。一人で行け!一人で。」
「お前な酒買っとくかい。」
「酒なんか入りませんよ、二人で、突撃しましょうよ。」
「俺は車の整備をしてるから、お前行って来い!」
「二人で、いきましょうよ、とほほです。」
「よしわかった、その代わりお前が先はいれよ」
とかいいながら、6~7時間かかって四日市についた。夜10時過ぎ暗い中、ところ番地を当てにして1時間も探すと、目当ての「北斗工業」があった。まずい!けっこうでかい会社のようで、20人以上いるようだ。
伝次は怯えて、パンを一つも食わない、リポビタンDも飲まない。
車では、中々寝付かれなくて、時々外に出て、出ないションベンをしたり、付近をふらついて見たりして夜を明かした。
「北斗工業」からほど近いところに、精米工場が有った。
朝の7時頃になったら、精米工場の奥さんが事務所に入って行った。
見張るのには最適の場所。
「おはようございますっ、私の妹の旦那が、女と一緒に逃げて、あそこの北斗工業にいるらしいって聞いたもんで、連れて帰ろうと思って迎えに来たんですが、ちょっとの間見張っていたいので、事務所の隅ちょを、貸してもらいたいんですが。」
ひとの良い奥さん、「いいよいいよ」と言いながら、お茶と煎餅持って来てくれて、「大変だね~、どっから来たよ?えっ東京!」
一緒に見張ってくれた。
7時半を過ぎたら、一人また一人と北斗工業の工場に入って行った。既に中には5人もいることになる。
康夫はまだ来ない。
「伝次ぃ何人位なら大丈夫だ?」
「俺 高校の時、小学生から金を巻き上げたことがあるっきりで、それ以来闘ってないので」
「小学生の金とったくらいで闘ったなんて言っちゃあ失礼だぞ」
8人が入ったところへ、見覚えのある左側の頬にひどい傷のある刺青をした康夫が入って行った。
(頬に傷は無いし、裸で来たわけでは無いので、刺青などはあるかないか分からぬ。そう書いた方が盛り上がるかと思って)
康夫をいれて9人だ。伝次が6人やっつけたとしても俺は3人を受け持たなくてはならぬ。
「伝次ぃ 9時過ぎれば、出て行くひともいるから、もうちょっと人が減るまで様子をみるか」
「ハァっ」こいつため息なんかついて、大丈夫かな~

疲れたのでこの続きは、明日にさせて下さい。