下町の、駅から10分、さびれたビルの3Fで、細々と金貸しをやっている男と飲んだ。
6時頃、事務所を閉めて、一杯やって帰ろうかと、カーテーンを引っ張っているところへ、
疲れ果てた、60代の男が入って来た。
10時からで、初めての客だ。テレビも見飽きたし、話だけでも聞いてやるかと、古びた応接セットに、座ってもらった。
後、 10万円 あれば。と言う。
会社の登記簿とか免許証とか、一通り、身分を証明するものは揃っていたが、
赤字の上に、資産は抵当付きの上に、差し押さえ迄喰らっている。
小さな商売で、金型屋を40年やっていて、息子が商売に失敗して、行方をくらませちまって、
連帯保証で2700万を何回かで払ったが、払い切れなくなり、ここに飛び込んで来た。
「後10万」
「あんた、行き成り、飛び込んで来て、担保も保証人も無しで、10万円貸せってかぁ!無理だよムリ、帰ってくれ」と、押し出そうとしたが、泣きそうな顔をして、お願いしますと言う。
こっちは 大した商売をしちゃあ居ないが、ココで30年も金貸しをやってる。
夕方 店仕舞いを当て込んで来る奴ぁ、ろくなもんはこない。
あっちこっち、断られ続けて、疲れ果てたようなのが来る。
担保も保証人も無しで、貸してくれだと!
親も子も友人も貸してくれないような人に、何で他人の俺が貸すもんか!
「帰ってくれ、無理だよムリ。」
何回かやり取りした後「明日返す」と言う。
じゃあ、その人から借りればいいじゃ無いか。
そのひとは、明日が入金日で、明日ならかしてくれるという。彼が困った時に2~3回貸したことがある。
その人と、連絡をとった。まともな仕事をしているし、明日なら払えると言う。
その人を連帯保証人にして、10万円貸せた。明日11万円払うと言った。
翌日、弁護士くずれ、とその男が来た。
出資法だか、貸金法だかで、11万円は、払えないと言う。
500円の金利だって年利にすれば、180%以上になる。法律違反だと言う。
馬鹿ぁいっちゃあいけないよ。
俺は貸さないと言った。
奴が11万円払うと言った。
脅かしたり、弱味につけこんだ訳じゃあない。
あれだけ頼み込んで置いて、ペコペコ、ありがとうと言った男が、18時間過ぎて何があったか知らぬが、俺の方が法律違反だってかよ。
良いことをしたと思っていたのによ。俺は悪モンかよ!
ハーバード大学のサンデル教授と授業に、「正義」についてというのが有り、
ダフ屋は、許されるかで、東大で、討論があった。
高校卒業して、達夫は、長男秋田の、農協に勤めている。
東京の大学に行っている、多恵ちゃんが、コンサートに誘ってくれた。
達夫は朝早くから出かけて来た。3ヶ月ぶり、なんだか、多恵ちゃんが少し遠い人になったような気がしたが、喋っているうちに、もとの達夫と多恵ちゃんになった。
コンサート会場は、物凄いひどだかり。
多恵ちゃんが、青い顔をして、バッグをかき回している、涙がででいる。チケットがない!
当日券売り場は、売り切れでしまっている。
達夫は、「今日一日楽しかった。また夏休みには、秋田に来るんだろ?」
多恵ちゃんは、返事もしないで、キョロキョロしている。
ダフ屋を見つけて、切符を買おうとしている。
12500円の切符が、3万円だという。達夫はダフ屋がなんだか分からなかったが、マトモな仕事では無いような気がして、「多恵ちゃん!帰ろっ!」
多恵ちゃんは、必死の面持ちで、「買うっ」
コンサートは、二人で6万の価値のある、素晴らしいものだった。
このダフ屋は、許されるのか。
押し付けたわけでは無い。ダフ屋も、売れ残ったら赤字になってしまう。達夫は、どうしても納得いかなければ、買わないという選択はできる。
需要と供給 土日のリゾートホテル代金は、ダフ屋程ではないが、足元はみている。
ダフ屋が居なかったら、多恵ちゃんは、幸福なひと時を失っていた。
ダフ屋のおかげで、楽しいひと時を過ごすことができた。ダフ屋さんありがとう!
高利貸しさんありがとう!じゃないのかなあ。
高利貸しさんは、悪者なのかな~