飲食店経営者・店長 117人に聞きました「お肉」の取引事情

飲食店にとって、食材を安く仕入れる事は経営の生命線であるものの、どうすれば、取引業者と良い関係を築きながら満足のいく仕入れができるのか、頭を抱える経営者も多いだろう。本号では、食材の中でもメイン料理となりやすい肉食材をどんなきっかけで仕入先を決めたのか、また取引後に後悔した事は何か、飲食店関係者にアンケート調査を行った。また、アンケート結果をもとに、食材会社との取引においてどんなことに気を付けているのか、実際に仕入れた肉をどのようなパフォーマンスで提供しているのか、繁盛店の事例も併せて紹介したい。

もっと細かく取引条件を決めていればよかった

調査日:2018年12月 飲食店経営者・店長117人に聞き取り調査を行った

まず、アンケート調査では現在仕入れている肉業者との取引のきっかけについて聞いたところ、「知人からの紹介(44%)」「独立前の店舗の取引先(33%)」が大半を占めた。反対に「インターネットで探した(14%)」「マッチングフェアに行き仕入れ先を開拓した(1%)」と、積極的に開拓している店は少なかった。次に、実際に肉業者と取引をしてみて、契約前に確認しておけばよかったと後悔したことは何かを聞いたところ、「食材の品質に関する事(36%)」「仕入価格の条件(33%)」「配送条件(18%)」との声が多くあがった。独立前に働いていた店が取引していた肉業者から仕入れている飲食店経営者からは、「価格や配送などの仕入れ条件をもっと前の職場と近づけたかった」「のれんわけだったで、仕入金額も同じだと思っていた」など、独立前の店舗の取引条件と同じくらいになるだろうと見通しが甘かったという後悔の声が多かった。また、知人の紹介のため、不満があっても我慢しているという意見も多い。そのため、知人や独立前の紹介してもらうこと以外にも、自分から積極的に情報を集め比較しながら、契約前に起こりうる想定問題を業者に確認しておくことをお勧めしたい。

(右グラフ) 肉業者との取引のきっかけの大半は、知人や修行店舗からの紹介だ。安心できる一方で、他社と比較検討せずに決めてしまうため、その後取引条件について後悔したという声も多い。 (左グラフ) 肉食材の仕入れは市場に左右されやすいため価格や品質が変動してしまうのは仕方ないが、日頃から取引業者と密なコミュニケーションが取れているかが、不満や後悔を生まないポイントだろう。

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繁盛飲食店の肉業者の開拓方法とは
池袋から徒歩15分ほどの場所にある、さーどぷれいす「和ビストロほたる」を運営するのは、株式会社for you companyの代表、松本仁志氏だ。数々の繁盛店を手掛ける(株)絶好調の出身者で、「和ビストロほたる」の他にも、パワースポット居酒屋「魚串炙縁」を運営している。看板メニューに、丸鶏の半身唐揚げ「絶好調ブクロから揚げ」を提供している同社に、本アンケートの質問項目の一つ「肉業者との取引のきっかけは?」とお聞きしたところ、「自分から業者さんに営業しました!」との答えが返ってきた。どんな経緯で看板メニューが生まれたのか、さらに提供方法の工夫について紹介したい。

丸鶏の半身唐揚げ「絶好調ブクロから揚げ」は「岩塩」「ハーブ」「情熱照り焼き」「淡路島スパイス」「海苔ぐら酢ソース」の5種類の味付けを用意している。唐揚げを美味しく食べてもらうために、3度揚げする手間暇をかけ、原価率は52%をかける看板メニューだ。そんな同社の看板メニューの仕入先との取引のきっかけは、松本氏のアプローチから始まった。

「私は葛飾区(東京)育ちなのですが、葛飾区には大人のディズニーランドと呼ばれる立石という呑兵衛の街があるんです。その街には、「58年ほど前に、日本で初めて“半身若鶏揚げ”を売り出し、現在も毎日行列ができる『鳥房(トリフサ)』という人気店があります。そのお店では、大きな声で話していると、他のお客さんの声が聞こえないから静かに!なんて、名物おばちゃんから叱られてしまうし、なんなら、そのスタッフさんがお客さんのビールを勝手に飲んでしまうような、一般的にそんな接客のお店なのですが、あの半身揚げを食べたい、おばちゃんの店に行って食べたい!そんな熱烈なファンのお客様が多くいらっしゃいます。私もそのファンの一人でした。だから、次に店を出すなら、絶対ここのお肉を使った料理をお客様に食べてもらいたいと思い、鳥房さんに肉を納めている業者さんを調べ、仕入れさせて欲しいと直接電話を掛けました。これが肉業者さんとのきっかけです。ですが、一回目の電話では肉業者さんに即断られてしまったんです。」

肉業者から門前払い

「一度、お電話した時は取引を断られてしまいましたが、その後も諦めずに電話をかけ続けていると、直接会える機会を頂きました。しかし、訪問し自分たちの想いを伝えたのですが、その時も取引は断られてしまいましたね。まだ私たちも物件が決まっていませんでしたし、食材業者さんも我が子のようにかわいい自社商品だからこそ中途半端なところには卸したくないというお気持ちだったのかもしれません。しかし、やるべき事は断られた後に次になにをするべきか!です。 想いを伝えるだけではダメだったわけですから、次は自分たちの想いを事業計画書にまとめ、私達が目指すゴールを達成させるためには、貴社と取引をさせて欲しいと再度お話したことで、結果、取引を開始させていただくことになりました。」

商談で使用した事業計画書は20ページにわたる。企業理念である「for you 大切な人の幸せのために」、和ビストロほたるのコンセプトである「池袋で日本一、使命(志)が見つかる食堂」を目指すこと、またその考えに至るまでの熱い想い、それらを実現させるための料理やサービス(接客)のこだわりが、事業計画書に事細かく書き記されている。取引が決まるまで様々あったが、真剣勝負で互いに本音で話したことで、店のオープン後は、肉業者の方が孫や家族を連れて、「和ビストロほたる」まで食事にきてくれたという。来店していただいた時の嬉しさは言葉にならないと松本氏は話してくれた。

料理にテーマ曲があっても面白い

看板メニュー「ブクロ唐揚げ」を提供するときは、スタッフが肉の生産地や部位の説明、料理一つ一つに込めた想いやストーリーを伝えながら、一方で半身の解体ショーを手元で行いながら提供している。「ブクロ唐揚げ 海苔ぐら酢ソース」は、鶏を日本酒に漬け込んでから揚げ、甘酸っぱい九州の酢“庄分酢”につけて食べることで日本酒と合う料理に仕上げている。提供時はこの料理説明に加え、なぜこの料理を作ろうと思ったのか、同社が大切にしていることの一つ、「for you(日本人の利他の精神)」について話が及ぶこともあるのだとか。

「ブクロ唐揚げ 海苔ぐら酢ソース」日本酒に鶏をつけこんでから揚げ、のりと合わせて庄分酢につけて食べる。甘酸っぱい酢との相性抜群。

「ブクロ唐揚げ 情熱照り焼き」は、お客さまの目の前でフランベして提供する。「皆さん、それでは情熱を唐揚げに注ぎます。3、2、1、ファイアー!!」の掛け声とともに火が上がるとお客の感嘆の声が聞こえてきた。さらに、ラクレットチーズをトッピングしたブクロ唐揚げを提供するときは、ラクレットチーズがスイスの家庭料理ということから、提供時だけ店内のBGMをアニメ「アルプスの少女ハイジ」に切り替えている。「くちぶえはなぜ~♪」の、のほほんとした音楽に合わせて手拍子をしながらお客の席まで料理を運び、目の前でチーズをかけて提供している。「野球選手一人一人に応援歌があるように、料理にもテーマ曲があると面白いなと思い始めました」。他にも、ビックサイズのビールを提供するときは、パチンコの軍艦マーチを流しているようだ。

BGMをアニメ「アルプスの少女」に切り替えて、提供。「くちぶえはなぜ~とおくまできこえるの♪」

一つ一つ料理の提供方法にこだわる同社の狙いは、『音楽+料理』といった他に類の無い新しいクリエイティブな価値を提供することで、お客様に楽しんで頂くことや、料理の待ち時間を感じさせないこと、他のテーブルのお客様にも興味を持ってもらい追加注文に繋げる狙いがあるようだ。「私達の接客のコンセプトは、世界一うざいおもてなし『セカウザ』です。そのため、お客様には生産者さんや商店街のマスターの想いを出来るだけお伝えし、また、そこにエンターテイメントな要素を加えることで、また会いたいと思っていただける接客を目指しています。そのため効率重視でいかに早く商品を提供するかよりも、会話や演出を楽しんでいただけるような空間づくりを大切にしています。」

B級立地でも繁盛し続けている同社の秘訣は、食材の仕入れから提供まで、一貫して熱い想いをもって取り組む、高い志があるからなのだろう。

取材協力
株式会社for you company
代表 松本仁志氏
さーどぷれいす 和ビストロほたる
東京都豊島区池袋2-72-9
TEL:03-6914-0643

記事:オト

2019年4月