人件費を下げれば、サービスレベルが下がる。

当時のあさくまグループでは、売上が対前年比97%と減っているくせに、しかも2800万円も赤字が出ているのに、人件費が前年より6800万円も増えていた。各店の店長が、パートが辞めるたびに現場のシフトをろくにチェックもせずに、スタッフを募集して、補充するものだから、その分の人件費が6800万円も増えていたんだ。

そこで、店長を集めて、この6800万円のコストを減らすためのシフト変更の話をした。前年通りのコストに戻すだけだから、過重労働でも何でもない。ところが、店長たちは抵抗する。忙しくなるとか言ってね。忙しくなるなんて言ったって、赤字が毎年毎年、ずっと続いていいのかよと俺は吠えた。机を叩いて怒った。赤字のままじゃあ、店だって、また閉店させなくてはならなくなる。忙しくなるどころじゃない。そう説得して、シフトを見直し、6800万円分を削るのに、2年間もかかった。

30店舗で、6800万円ということは1店舗あたり200万円だ。時給1000円で計算すると、年間2000時間減らさないといけない。1日5時間、延べで400日間分の勤務時間を、シフト表から削る必要がある。店のスタッフと、その交渉をしろと、店長に迫った。店長会議で、各店の人件費率を出して、順位づけし、人件費率の高いほうの店長から順番に、「減らせ!」と怒鳴りあげたんだ。

そこまでやっても、店長は現場に帰って、何もやらなかった。人件費は減らなかった。次の会議で「お前ら、会社つぶす気か!」と怒鳴っても、その場では、はいはいと言ってるけれども、店に帰れば何もやらない。

結局、強制執行だ。俺ら、幹部スタッフが、すべての店を回ったんだよ。店に行って、シフト表を作って、店長の横に座って、店長からスタッフに「あなたは午前中だけ来てくれ」「午後5時半から来てくれ」と言わせた。
自分が採用したパートだから店長は言いにくい。
店長がはっきり言えなければ我々が言った。
そこまで強制的にやらなければ、店長は動かなかった。

人件費の次に取り組んだのは、在庫の削減だった。調べてみると、食材の在庫を最大で26日分も持っている店長がいた。そこで、「この食材は注文して何日で入ってくる?」と聞いたら、「たいがいは翌日。遅くても2~3日後に入ります」と答えが返ってくる。じゃあ、在庫は3日分で十分じゃないか。何で26日分もあるんだ。店長会議で、店ごとの在庫を出して、順位を付けて、また机を叩いて、「減らせ!」と怒鳴った。ところが、これも減らないんだな。店長が店に帰ると、何もやらないんだから、減るわけがない。

結局、また強制執行だ。俺らが手分けして店に行って、業者を呼んで、在庫にペケペケを付けて、このペケの食材はまだ在庫がたくさんあるんだから、ここに新たに入れたら、あさくまとしては金は払わないよ。店長に直接、払ってもらうか、業者さんの寄付か、どっちかにすると通告した。

全店舗でそこまでやっても、在庫は減らなかった。少しは減ったんだけれども、目に見えては減ってこない。業者も、なるべく押し込みたいから、店長に「在庫調べて、置いときましたから」「ああ、そう。ありがとう」なんてやってる。あきれたことに、店長が、ろくに在庫チェックもしてない店がたくさんあったわけだ。
幹部が交代で店に行き、店長と業者を並べて「ペケがあるのに、在庫を押し込むな!」と怒鳴る。
翌月少しだけ在庫が減る。

8年経って人件費率は36%が、22%になった。
人件費が下がればサービスが悪くなる。
テンポスの社員に、外食の勉強と福利厚生(タダでステーキが食える)を兼ねて、覆面調査をやらせた。
その点数によりサービスレベルの低い店は、店員が動き回るようにトレーニングを続け、今では14%も人件費率を下げたのに、サービスが良くなったと言われるようになった。
勿論今のサービスレベルで良しとしているわけではない。
サービスの匠を目指して、毎年サービスマイスターコンテストをやっている。