ひたすら検証と改良の繰り返し
テイクアウト販売では、自社の強みである海鮮系のメニューに注力した。自然豊かな鹿児島で、同社が生産者と共に養殖する「茶ぶり」や、加世堂社長が、毎朝市場に行き仕入れた魚を、「海鮮丼」「手巻き寿司セット」「刺身盛合せ」等のメニューにして販売。
「商品を作る時は、まずは利益は考えずに、どうすればお客様に喜んでもらえるか、感動してもらえるかを考えて作っていきます。そして、そこから、不要なものを削ぎ落していくのです。これは原価の安いものに変えられないか。卵焼きは2つなのか、1つなのか。ガリの量は適量か等々・・・。他にも、時間経過別のネタの状態や、酢飯の味の変化を確認する等、様々なパターンを試しメニューを決めていきました。」
単価の高い、「刺身盛合せ(2~4千円)」「手巻き寿司セット(2~3千円)」は、購入してくれた方のみ、「箱ウニ」を原価1000円で販売することにした。スーパーよりも安く、そして新鮮な「箱ウニ」を購入できると大好評だったという。とはいえ、コロナの影響で市場価格が下がっている今なら、安く仕入れて、少しでも粗利に充てたいと考えてしまいそうなものだが、加世堂社長は、
「経営ですから、しっかり利益を出すことはもちろん大事です。しかし、飲食店だからこそ、自分たちが出来ることをやりたいという想いもありました。収入が激減している仲買人や生産者の売上に少しでも貢献したい。お客様に食を通して少しでも元気を届けたい。だから原価率云々ではなく、生産者の方のため、お客様の笑顔を第一に企画を考えたのです。」
さらに、パッケージにはお客様を気遣う工夫がされている。オードブルや刺身の盛合せの容器の蓋には、「茶ぶり」「石鯛」といった、ネタの名前が白のマジックペンで書かれているのだ。これまで、店舗で刺身を出す時は、刺身の種類を口頭で説明し提供してきた。ただ単に「美味しい」と感じてもらうよりも、何を食べて美味しいと感じたかをお客様に認識してもらうことで、より記憶に残る食事体験となり、それがリピートに繋がると考えてきたからだ。
「地味な改善ではありますが、常に考えるべきは、どうすればお客様にもっと喜んで頂けるかということです。商品を購入されてから、食べる瞬間までの一つ一つの過程を想像し、それらを最高のものにするために、日々の努力の積み重ねを大切にしています。」
一番美味しい状態で「茶ぶり」を食卓に届けるために
テイクアウトを開始すると共に、オンライン販売も同時に進めていた。まずは、コロナで大打撃を受けている、同社の主力商品でもある「茶ぶり」の生産者を支援することを目的に、クラウドファンディングで「茶ぶり」を全国に販売することにしたのだ。
しかし、これが一筋縄ではいかない。真空する圧力のレベルによって、「茶ぶり」の旨味や甘みが変わってしまい、また、切り分ける厚さや保存期間、保存温度によっても仕上がりが変わってしまう。そのため、朝締めの活きの良い「茶ぶり」を真空してから、クール宅急便で送るまでの工程を分解し、一つ一つベストな方法を追求した。結果、一番美味しい状態で届けるには、自宅で刺身にしてもらうことが一番だという結論に至る。そして、またここで加世堂社長は想像する。誰でも美味しく調理するにはどうしたらいいだろうか。そこで、同封するパンフレットのQRコードをかざせば、「茶ぶり」の捌き方や、美味しい盛り付けの方法が分かる動画を見れるようにした。オリジナルレシピももちろん同封する。「美味しく食べるためのスライスの仕方、盛り付けの方法が分かれば、愛情も持てるし、家族での会話も増えるだろうなと思い準備を進めていきました。」
そして、いよいよ5月26日にクラウドファンディングを開始すると、4時間で目標の100万円をクリア、さらに3日後には200万円の支援金額が集まった。まだまだ全国からの応援の声は止まらない。
仕事の面白さとは
「飲食店って本当に楽しいです。何が楽しいかって、目の前のお客様を喜ばせることはもちろん、仲間と何かを成し遂げる楽しさというのは、かえがたいものがあります。この期間、何度も失敗してきました。でも、絶対に諦めなかった。行動すれば、そこに場所が生まれる。その場所を従業員と育てていく。コロナが無ければ、これほど従業員一人ひとりと向き合う機会もなかったことでしょう。一人ひとりが自分の役割を最大限努力する大切さを再認識した日々でした。」
取材協力
代表取締役 加世堂 洋平氏
鹿児島市西千石町8-1 能勢ビル103
TEL:099-837-3586
乙丸千夏(テンポス広報部)