農家が農家に贈る飲食店ビジネス

畜産農家による農家と料理人のための飲食店「農家バルFOODBABY」運営するのは、海道十勝地方の更別村で牛を育てる畜産農家”松橋農場”の代表取締役、松橋泰尋氏さんです。農家が出店する飲食店は、自社商品のPRのアンテナショップという立ち位置が多いですが、この店は単なる6次化としてのアンテナショップではありません。農家と他店の料理人やバイヤーを繋ぎ、日本の農業を向上させていくプラットフォームとしての役割を担うことを目指しています。

農家から飲食店へのチャレンジ

松橋さんが農業に携わり始めたのは2011年の3月からです。それまでは、18歳から札幌市でバーを複数店舗手がけていましたが、結婚を機に農業の世界に入りました。

そして、農家バルFOODBABYスタートの転機となったのが、2013年に都内で開催された肉の商談会です。2012年から「松橋牛」として黒毛和牛の飼育を始めた松橋さんでしたが、無名の”松橋牛”に興味を示すバイヤーは誰一人いませんでした。それが悔しくてメガホン片手に2時間半、声を張り続けた松橋さんに声をかけてくれたのが、6次化プランナーである(株)リトルワールドの斉藤さんです。その出会いをきっかけに、2人は農家バルFOODBABYを2014年11月のオープンさせることになります。

コンセプトである「十勝の農と食を楽しむ」のもと、農場で育てた和牛肉の他、農家から取り寄せる食材で作る300円の小皿料理から、メイン料理まで約100種類を提供しています。15件だった提携農家も3年目には105件まで増えました。

料理をお客様に提供する時は、生産者の名前と地域を100%伝えています。そして、枕詞を大切にしているそうです。例えば、「じゃがいもで育てた黒毛和牛のサーロインステーキです」「2008年の洞爺湖サミットでG8が食べたチーズです」のように、食材の背景やストーリーを伝えているのです。しかも、お客様に合わせて、そのお客様が喜びそうな言葉を選んで話しています。

食材の美味しさについて肥料設計の段階から話せる松橋さん。105件の農家が育てた食材の特徴を引き出したメニュー開発や、お客様へ食材の美味さを言葉で伝えるための知識が彼の武器でもあるのです。

飲食店対農家ではなく、農家対農家だからこその信頼関係

提携農家である、西洋ねぎの「リーキ」を育てる小笠原農園と、じゃがいもの「デストロイヤー」を育てる十勝ガールズ農場に案内してくれました。

松橋さんと農家さんの様子を見ていると、飲食店と仕入農家という関係ではなく、「農家」対「農家」として他愛のない会話が続き、松橋氏と提携農家の信頼関係は築かれているように見えます。「台風で400ヘクタール規模の畑が流されたら、肥料代、燃料代、人件費、その他経費を差し引いて手元に残る金額はいくらなのか」、農家である松橋さんはスラスラ言えてしまう。そんな松橋氏だからこそ、飲食店と仕入れ農家という垣根をあっという間に超えてしまうのかもしれません。

現在の提携農家数は105件、松橋さんは「今後はもっと件数を増やし、農業全体の力を向上していきたい」と話します。そのためにも「農家バルFOODBABY」が飲食店と農家の架け橋となるよう、札幌や道外へ出店していく考えです。

農家バルFOODBABY

帯広市西2条南9丁目20-1

TEL:0155-94-3976

代表取締役 松橋泰尋氏