あさくまの新業態「ビストロ」の責任者 川上君からメールあり。
社長から預かった「中谷」さん、辞めると言っている。止め切れないので、諦める。という内容。
「中谷」さんは、25年前に、私の創業した食器洗浄機メーカー「KYoDo」に、高校を出て18歳で入社して来た。
僅か1年半居ただけだったが、見どころのある女の子だった。
その子が、25年経ってあさくまに、入社してきた。
運命を感じた。風の便りに聞くと、辞めた後何年かして、四年制大学に、入ったらしい。
ヤッパリな、ただもんじゃないと思ってた。
入社の面談の時、毎日1時間以上かけて、山道を下って
高校に通っていたとのこと。恐らく帰りは2時間近くかかっただろう。
凄いなぁ!「採用」というのも、私は、高校の電車通学に、往復4時間が耐えられなくて、2年生の夏から、下宿させてもらった。
社会人となって、困難に直面する度に、あの通学の4時間くらいの事に耐えられなかった自分が、思い出されて、甘ったれた育ちだったことを、思い起こされた。
彼女は、飲食を経営したり、ハワイで飲食のコンサルをやってた。
あさくまが、海外出店をする、FC展開をするというのを聞いて、入社してきた。
川上君からの報告は、現場の若い人たちから、「中谷さん」は、足を引っ張っている。と言われている。本人も、迷惑をかけるんなら、申し訳ないので辞めるという。
入社してから、立ち話をした位で、ゆっくり話すのが、退社の申し出を止める話というのも皮肉なもんだなぁと、思いながらも、「中谷さん」と話すことにした。
「この秋には、直営 FCを含めて、6店出店する。内部体制が整ってきて、来年度は、直営7店FC15~25店、展開する。合わせて、海外も、視野に入ってきた。いよいよ、君の出番だという時に、何でまた辞めるなんて?」
「店の足を引っ張っていると、言われているからです。」
「何でそのように言われているんだよ」
「私は飲食のコンサルをやってたのですが、現場のことを知ってる訳ではありません。」
「現場のことを知らない人が足を引っ張ると、言われるなら、入社してくる人すべてが、足を引っ張ると、言われるだろうよ。
直ぐに役に立たないのは分かっているんだから、お前だけが、足を引っ張っていると言われる理由は、思い当たらぬか。」
「現場のオペレーションの、指導マニュアルがないからです。」
「指導マニュアルは、お前にないだけで無く、パートにだってないんだから、マニュアルが無いから、足でまといと言われたんじゃ無いんじゃないの?」
「私が、上から目線で物を言うからだと思います。」
「自分の部下ではないんだから、上から目線で物を言わないようにすれば、いいじゃないか。」
「私は、本部スタッフということで、採用されたんで、現場担当ではありません。」
「そりゃあそうだ。お前を、現場においといたんじゃ勿体ないわい!上から目線で物を言うから、足を引っ張っていると言われる人と、上から目線で物を言っても、足を引っ張っていると、言われない人の違いは、何処だ。」
「現場の事を知らないからです。」
「このチャンスに、現場を憶えたらどうだい」
「本部スタッフで、英語も出来る。現場の事を憶えても意味がないと思う」
「俺もそう思う。唯 今迄は、「あさくま」として、力を蓄えていた。その間、お前にピッタリな仕事はなかった。その間現場にいてもらっただけだから、不満に思うのも無理はない。よく分かるよ!
いよいよ 出店出来る体制が出来てきた。この段になって辞めるとは、何とまあ、間の悪い事」
「本部でならやらせて戴きます」
「英語も出来る、コンサルもやって来た、いよいよ出番じゃないか!」
「やらせてください」
「おう 頼むよ。一次試験をクリヤーしてくれ。」
「はい!どんな事でもやります。」
「もう一度、ビストロに戻って、店の若いのから「中谷さん」は変わったと、言われるようにして来い。」
「ビストロでは無理だと思います」
「いいかい!お前は英語も出来る、コンサルもやって来た、素晴らしいものを持っている。
唯 世の中それ程甘いもんじゃない。今のままで、役に立つわけではない。勉強する事はいっぱい出てくる。」
「勉強する事は嫌じゃありません」
「そうだろうよ。社会人になってから、大学に入り直す位だから、向上心は、十分と見た。但しお前のやりたい勉強だけじゃない、お前の気に入った勉強だけをしていたんじゃぁ、俺の知ってる事、俺の経験した事を、受け入れないって事もある事になる。」
「言われた事は、やるつもりです」
「ビストロで、若いのから変わったと、言われて来い」
「何故ビストロなんですか?」
「4年前、あさくまを、テンポスで引き継いでやるに当たって、本部長として、コンサルをやってた男を使う事にした。月給80万。4日目に、辞めると言って来た。
皿洗いを、3日もやってる、俺を試しているんだろうが、この3日で店を回って、問題発見と対策を立てられるのに、こんな無駄に日々を過ごすのなら、馬鹿馬鹿しい。辞めるという。
その結論のだし方は正解。早いうちに、見限った。正解。
俺だったらこうはしない。本部長としてやってくれと言われて、この元コンサルは、どんな本部長を考えていたんだろう。
自分のやり方を提示して、相手のやって欲しい事を聞いて、納得した。その上でやろうと決めた。
創業者の、近藤誠司は対したもんだ。人間力を判断した。
元コンサルは、辞めようと、自分で決めたんだが、近藤誠司にしてみれば、逃げてったと、いうことになる。
第一その元コンサルが、如何ほどの人物かは知らぬが、一度はチャンスと思って決めた事を、投げ出すというのは、皿洗いをクリヤーしたとしても、いろんな場面で、逃げ出すオファーをする時がくる。
僕は、直球しかなげられませんが、使ってくれませんかと、言うのに似てる、ピッチャーは、即交代有りだが、本部長はそうはいかぬ。
飲食の経営は、客の好みが変わる、競合店の出方が変わる、BSE問題のような世界の
状況にまでも影響される。
臨機応変、対処と、対応策の繰り返し、
つまり オーナーの言い方何ぞ、いちいち気にしてランない位、問題点はある。幾つもの問題点のうちのたった一つきりで、逃げてしまう、オーナーとのやり取りも課題の一つと、考えられないような器量では、本部長なんぞできるわけ無い。
俺は、元コンサルを説得した。月に80万も払って、皿洗いなんぞにしておくもんか!あんたを観てんだよ近藤誠司は、あんたの、今やる事は、皿洗いのパートから、凄いねって言われる事だ。
何やったって 「ひたむきに」やりさえすれば凄いねって言われるよ。
パートは、「ひたむきに」を見ているだけだからねっ!」
中谷「私は何をすれば良いのでしょうか」
「ひたむき」を見てもらう事だよ」
「……..」
「一番早く店にいけ、掃除をしておけ、テーブルを拭いておけ、嫌がる仕事は全部引き受けますからと、宣言しろ。10日もしないうちに、ポツポツと認める人が出てくる。」
話し終わらぬうちに、涙を流しながら、やってみます。と言った。ツボにはまった様に説得がうまく行った。ある年齢になると、言葉も重みがついてきた。
翌日 川上君から、やっぱり、「辞める」言って来た。
オンナの泪にすぐ騙される、助平ジジイここに有り。ナンマイダナンマイダ、チーン。