「一緒に働かないか?」ずっと誘われていた。18歳でスナック、19歳でガールズバー。接客経験はあったけれど本格的な居酒屋となると話は違って、新しい世界が怖かった。お酒や料理や専門的な接客…自分にできるはずがないと思っていた。
しかも声をかけてくれたのは自分が初めて行った、いわゆる「ちゃんとしたおしゃれな居酒屋」の社長だったから、適当に返事をするわけにいかないと断っていた。転機が訪れたのは、現在勤めている「紬」がOPENした2015年1月。「うまくできなくても頑張ってみよう」同年3月、バイトとして入社した。
しばらくは怒られっぱなしの毎日だった。自分以外は全員社員という環境の中、「こんなに考えてみんな動いてるの!?」という驚き。人見知りと知識のなさで初めてのお客様に話しかけられないもどかしさ。想いに行動が追い付かない。ただ、そうこうしているうちに、自分のした接客やお酒のチョイスが、お客様の時間を作っていることが楽しいと思えるようになっていった。
「ここに長く勤めたい」「飲食業が好き」「スタッフもここのお客様も大好き」社員になる直前の12月、自分の素直な気持ちに気づき心から嬉しかった。
お酒は飲めない。テイスティングでも1日にできる量は限られている。「そんな人に薦められても…」とお客様に言われるのが悔しかった。まずは社長に聞いて、店舗にあるラインナップの勉強から始めた。本もたくさん読んだ。覚えることはいつでも楽しい。そんな中でも一番大事にしていることは、お客様との会話だ。何が好きでどんな感情で来店しているのか。仕事で嫌なことあったのか、今日はどう過ごして帰りたいのか。お酒の好みも把握しつつ、お客様が過ごす時間を何よりも大切にしたいと考えている。
ある県外のお客様が「店長とちーちゃんと3人で写真撮っていいですか」と聞いてきたことがあった。「しばらく来れなくなるから…。」と。出張のたびに毎回立ち寄ってくださるそのお客様の思いに胸が熱くなった。その写真を見て、もう一度ここに来たい、逢いたいと思ってくれる人がいること。飲食人としての在り方、使命のようなものを感じた瞬間だった。お客様のすぐそばで、家族よりも家族らしく、ここで待ってあげられる存在でありたい。企業人としてステップアップしないといけないことはわかっているし、視野も広げたい。今、そう強く願っている。
「紬」という場所は、職種が違うすべてのお客様の社交の場。ただ飲みに来るだけじゃなく、いろんな人との交流の場。そして、自分を飲食人として、人として、一から育ててくれた私の中で、世界と自分を繋ぐ大切な場所なんです。
記事執筆
澤田てい子 1978年10月10日生まれ 青森県下北半島出身 東北学院大学経済学部卒業 株式会社リクルート、地元IT企業を経て、2014年に独立。 東北の居酒屋を中心に年間1200軒を飲食人とともに飲み歩き、情報収集、トレンド発信、販路開拓等、飲食人と生産者を繋ぎながら外食業界を盛り上げるために日々活動中。 フードスタジアム東北編集長。 (一社)東北食の力プロジェクト事務局長。
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