早朝の電車で病んでる女と争ったバカな俺。分かってはいるんだが。

朝6時頃の、渋谷から、大宮行きに乗った。

1両に10人も乗っていない。資料を見ながら書き物をするために、

電車のドアーのすぐ左の長いす3人掛けを占拠して、椅子に資料を広げて、レポートを書いていた。
次の駅で、30代前半の女が車内はがら透きなのに、俺の資料を押しのけて、

三人掛けの椅子に、これ見よがしに、「どすん」と座った。
「かたずけなさいよ!」 俺をにらみつけて、やや青白い顔の化粧の無い病んでるッぽい女が言った。

頭に来た俺は「なんだぁこのやろうぅー」 とやったんじゃあ、騒ぎになったら立場が無い。
それくらいは計算できる、冷静な上場会社の会長だ。
病んでる女には病んでる親爺で行こうと決めた。座席は俺、資料、女。
資料を丸めて、女の隣に俺は移った。其れも体が引っ付くくらい近づけた。
もうこうなると、だめ。上場も、会長もない。
女の耳元で「姉さん、どこまで行くんだよ」 目の焦点を合わせないで、落ち着きの無い、病んでる親爺に

なりきって。「今日 暇だからよ、付き合ってやるよ、どこまで行くんだよ。」

なかなか調子が出てきたぞ。病んでる姉さん、しっかりしているよ。

携帯出して、車内から110番しやぁがッタ。何線で、今どこを走ってる、とか言ってる。

逃げ出す訳には行かない。ほらっっ。今俺は病んでるんだから。しばらくして、車掌が来た。
「警察から連絡がありましたが、なにかありましたか?」
病んでる女は病んでるまんまにしか話せない。
こっちは会長。社員教育のメインが、良い人間関係、接客応対。ポイントは感じよく。

「いえ、何もありません、大丈夫ですよ、」落ち着いて、涼やかなやや高い声で答えた。

病んでる女がなおも言おうとするもを、静かにさえぎって「だいじょうぶですから」

車掌にしてみれば、電車のスピードも落ちてきて、まもなく駅だ。「大丈夫ですね」と消えてしまった。

「姉さん!どこで降りるんだよ。付き合うからよ」

ドアーが開いた途端に、降りちまった。女のすぐ後ろについて 「付き合うからよ」

女が小走りになった。ドアーの閉まる寸前に、電車に俺は飛び乗って、こっちを観て、

にらんでる女に手を振った。