カンブリア宮殿登場!!定額制の完全会員制 焼かない焼肉店「29ON」の緻密なマーケティング戦略

ITの導入が立ち遅れているといわれる飲食業界において、デジタルマーケティングの専門家と食の専門家が結集し、独自の飲食店ビジネスを展開しているのが2015年創業の株式会社favy(ファビー)だ。年会費で高級肉が毎回5,000円で食べられる、完全会員制の焼かない焼肉店「29ON(ニクオン)」や月額定額制の「coffee mafia」を運営する同社の代表取締役の髙梨巧氏に固定客を獲得する成功のポイントについてお話を伺った。
ECサイトを作るノウハウを飲食店に転用した

デジタルマーケティング×飲食のスタートアップ企業としてスタートしたfavy。1店舗目の創作洋食”C by favy”はまさに彼らのITの技術をフル活用したコンセプト設計がなされている。ユーザーがどこで情報を知り、どういう気持ちの態度変容が起きてお店を利用しようと思うのか、そして最終的に来店に結び付くのか。”C by favy”はECサイトでモノを売る時と同じプロセスを転用してできた店舗だった。
「インターネットでの検索数であるとか、情報へのアクセスの頻度などをリサーチすることで、どの料理を期待している人が多く、それに対して店舗数が少ない。といった情報を整理しながら、イタリアンだったらどんなメニューがいいか、和食だったら、と具体的なメニューまで絞り込んでいきました。」と髙梨氏は当時を振り返る。

C by favyのオープン後は、平均1.2回転しお断りのお客様が出るほどの繁盛店であったが、生ハム、ローストビーフ500円食べ放題企画を21時以降限定で実施することで、2回転以上の効果をあげていく。「当然原価がかかるわけですが、それが集客の費用よりも低ければいいわけです。たとえばグルメサイトに10万円払って10組来れば、一組呼ぶのに1万円かかる話になるわけですから、1万円分まで無料で食べていただいても同じなわけですよね。」
値引きで呼ぶのではなく、限定企画にすることでお客の満足度も圧倒的に高くリピートにもつながっていった。その後も、生ハム・ローストビーフ食べ放題は、時間や価格、食材を変更しながら、集客の成功ラインを検証していく。1,000円で提供したり、時には1ヶ月の会員制限定企画にするなどして、リピート率や利益率をデータとして蓄積していった。

飲食ビジネスの致命的な欠点とは何か

飲食ビジネスは、最初に仕入れをして、調理して、対価を頂くこと、これしかしない。つまり飲食ビジネスのキャッシュポイントはひとつしかないということだ。だから、雨の日は売り上げが減り、台風がやってくると客足は遠のき売り上げはほぼゼロに近くなる。そこで、安定的な収入を得られる定額制モデル”サブスクリプション”という概念を飲食店に持ち込めないかと髙梨氏は考え、14,000円の年会費で高級肉が毎回5,000円で食べられる、完全会員制の焼肉店「29ON(ニクオン)」と月額定額制の「coffee mafia」をオープンさせた。
“29ON”は完全会員制で住所・電話番号も非公開。会員はクラウドファンディング”Makuake”で募集したところ即完売したという。会員制にすることで、来店客のすべての会員のデータを記録することができ、来店頻度とオーダーの種類等を、すべてデータとして収集、蓄積していった。これによりデータに基づいた緻密な販促活動を可能としている。しかも29ONは完全予約制で、食事のスタートは18時か21時のどちらかをお客が選ぶスタイル。メニューも1コースと飲み放題のみのため、余計なオペレーションも不要で、人件費をはじめ飲食経営に係るロスを徹底的に排除、会員のノーショーへの対策も万全だ。その分、食材原価は通常の飲食店の2倍以上をかけ、お客にバリューを提供しているから、完全会員制、年会費のビジネスモデルでも予約は絶えない。現在は都内で4店舗展開している。

一方で、月額3000円でハンドドリップコーヒーが飲み放題の店”coffee mafia”においては、現在、飲食店の新たなキャッシュポイントを追求しているところだと高梨氏は話す。「coffee mafiaで検証した結果、会員様は平均月19回ご来店いただいていることがわかりました。それだけだと店は赤字ですが、考えようによっては、一ヶ月に確実に19回来ていただけるということです。われわれはお客様にサイドメニューの提案やプロモーションを仕掛ける機会を19回も頂いていると考え、お客様へのライフタイムバリューの提案を検証中なんです。」

サブスクリプションサービスは、単なる定額制サービスにあらず

年会費や毎月定額で利用できるサブスクリプションモデルは、飲食業界でも広がりつつある。昨年11月には野郎ラーメンで月額8,600円で1日1杯食べられるサービスが始まり、今年の3月には株式会社ダイヤモンドダイニングが運営するザ・ステーキ六本木店も「ステーキ定額パスポート」サービスを開始した。今後も定額制モデルは広がっていくだろう。しかし、月額制は固定客獲得のメリットがある一方で、顧客の満足度を高水準で保つ努力が欠かせない。

継続して利用してよかったと思われなければ長続きしないからだ。また、料金設定をいくらにするかも大事なポイントである。それらの課題に対して、得意のITを駆使し、顧客データの収集、分析、検証の努力を欠かせないfavyだからこそ、飲食店の新たなビジネスモデルを確立させてきた。今回は飲食事業にスポットをあてて取材したが、favyの本業は飲食業界に特化したマーケティング支援事業であり、企業理念は「飲食店が簡単に潰れない世界を創る」。今後は、29ON、coffee mafiaのノウハウを飲食店に提供していく考えだ。デジタルマーケティングで飲食業界が今後どのように変わっていくのか、俄然楽しみになってきた。

◼︎会社情報
株式会社favy
東京都新宿区西新宿6-16-6
//www.favy.co.jp/

◼︎店舗情報
完全会員制の焼かない焼肉店「29ON」
住所・電話番号:非公開

smiler 41号より