閉店する人が後悔する3つのこと―料理編

前号掲載した「閉店する人が後悔する3つのこと」の反響を受け、続編をお送りします。今回は“料理”にまつわる話です。株式会社テンポスホールディングスの代表取締役社長、森下篤史に伺いました。

前回は、閉店する人が後悔する3つの事として、次の3つを話したよね。「いらっしゃいませ」と言えないのは、単なる挨拶だと思っているから、従業員のわがままを許してしまうのは辞められた後の苦労が怖いから、小さな不正に目をつぶってしまうのは、責任をとらせ、一からやり直しをさせる道を示せないから。この3つはどれも、オーナーとスタッフの心構えの話しだったけど、今回は閉店する人が後悔する料理にまつわる話をするとしよう。

後悔その1-残った悪い鮮度の料理を提供していた

匂いのきつい職場で働いたり、顔が好みでない(ブサイクな)人と結婚しても、次第に気にならなくなるように人は環境に合わせて生活できる適応能力がある。初めて空襲を受けて、身内が死ぬと大騒ぎして家族や友人の死を悼むけれど、毎日空襲を受けて、何人も死ぬと4、5日目には台車に死体をどんどん載せられるようになってしまう。恐ろしいことだけど人は環境に慣れるから生きてこられたし、現在も『慣れる』という習性は、どんな人にも染みついているものだ。

飲食店では、残っただし昆布を煮ておにぎりの具として出すといったロスを無くして売上を増やす努力は欠かせない。しかし、その手間暇を面倒だと思い衛生管理を手抜きしてしまう店もある。手抜きを続けていると、鮮度の悪い料理を出すことにも慣れてしまい、それが当たり前になってしまう。もし、徹底的に「美味しいものをだす」という環境で料理を出していれば、最初は大変だろうけど、そのうちスタッフがその環境に慣れて出来るようになるものだ。悲しいかな、人は自然と手を抜く性(サガ)を持っていて、楽な方、楽な方に行きたがるんだよね。その結果、鮮度の悪い料理を出すという環境に慣れて、お客さんが離れていってしまう。

後悔その2-業者の言いなりに仕入れていた

取引先(業者)と仕入れ価格の交渉をすることは、仕入業者を大切にしていない事だと勘違いしている人が非常に多い。飲食店にとって安く仕入れることは経営の生命線なのに価格交渉をすると良い関係が作れないと思っているからだ。安く仕入れながら、一方で業者を大切にするというのは、ボクシングの選手が殴り合いの試合をしながらも試合後は熱く握手を交わすのと同じようなものだ。つまり、業者と良い関係を作ることと、業者と真剣勝負で価格の交渉をすることは分けて考えないといけない。スポーツマンシップで徹底してコストを要求しながら、業者と仲良くするという考えがないから、遠慮して業者の言いなりに仕入れてしまう。

あさくまの社長をしていたときの話しだ。デザートバーにモナカの皮を置いてソフトクリームやフルーツ、あんこを自由にトッピング出来ればお客さんが喜んでくれるだろうと思い1店舗で試したことがあった。実際、お客さんからは大好評で、すぐに全店で導入しようとしたんだが、ここでビックリ、モナカの皮1枚の仕入れが20円だという。そんなバカがあるか、せいぜい3円か4円だろうと担当者に伝えると、「3社から見積もりをとって一番安い取引先に25円のところを20円にまで下げてもらったんです。」と、やることはやっていると言わんばかりの態度だ。デザートバーに置くわけだからタダで配っているようなものなのに1店舗1枚20円を年間1万個仕入れると20万円、60店舗が仕入れると、その額1千2百万円。たまげる金額だ。ところが、「業務用 モナカの皮」とネットで調べてみると1個15円とかで販売されているんだよね。交渉しなくて15円なのにうちは20円で買っていたんだよ。

2ヵ月いろいろ試した結果、仕入れは6円まで下がった。つまり、仕入れ担当者は自分の腹をいためないし、手を抜くわけでもなく普通に仕事をしているだけだから、こんなことになってしまう。ただ淡々と仕事をするだけだから誇りもないし、絶対的な価値を分かっていないから1枚20円と聞いたときに価格が高いことにも気づけない。「仕入れという仕事に命を懸けているんだ」と思わないで仕事をしていると6円が20円になってしまうということだ。

後悔その3-店創りにこだわっていたこと

「こちらは群馬県の野菜にこだわったお店です~!」なんて、取り上げられる店をテレビで見た人が勘違いして、自分もこだわりの店をやろうとする人がいるが、そんな人にはその時点で死相が出ているよね。新規開業で“こだわり”の店をやりたい人は、店創りにお金をかけてしまう。食器やスタッフのユニフォーム、わざと錆びさせた新品の“かま”を買って古民家風の店を作ったりするんだ。でもそれって、ほとんどが独りよがりで、こだわりとは言えない。日本には絵描きが何万人もいるが、その何万人は自分の絵を認めてもらいたくて描いているわけだけど、売れなければ、それは独りよがりだよ。ゴッホも200年売れなかったけど、認める人が現れたときに、ゴッホも独りよがりではなくなったと言える。お客さんから認められない限り、こだわりは一生独りよがりである。

繁盛する前から“こだわり”にお金をかけていると、あっという間に資金が底をついてしまう。ときどき、独りよがりの店でも、その店の業種業態がお客さんの要望とぴったり合って繁盛している店があるが、そんな店がテレビに出るから勘違いする人が出てくるんだよな。その独りよがりはたまたまで、どこでも使える独りよがりではないよ!ということに皆気づいていない。だから、飲食店がやるべきことは、真っ先に商品開発。「味はいかがですか?」「値段はいかがですか?」「ボリュームはいかがですか?」、毎日毎日お客さんに聞いてまわる。じゃぁ、自分が修行してきた15年はどうなるんだ!という人がいるが、あなたの店に来ているお客さんが、あなたの商品を認めるかどうかと、15年の修業期間は関係ないだろう?常にお客さんの意見を集めて、ひたすら作り直す。こだわるべきところは、お客さんが美味しいと思うメニュー開発をすることだよね。お客さんも素人だから、全て正しいわけではないが、お客さんの意見には常に耳を傾けなければならない。お客さんから集めた情報を店の方針に活かさないと、いつまでたっても独りよがりのまま。客商売というのはお客さんに合わせてやっていくことが大事だよね。

さっき、独りよがりの店がテレビに出てるといったけど、お客さんの意見を集めて徹底的に料理を極めたうえで、自分のこだわりを出して繁盛している店もあるから、テレビに出ている店が全部独りよがりだということではないよ。そこは勘違いしないでくれな。こだわりを出したいなら、お客さんが増えてきてから自分が本当にやりたいことを少しずつ出せばいい。本来は、競合店が何をしているのか、他の店を見ながら自分の店の改善を続けないといけないんだが、その話まですると長くなるから次回話すとするか。

インフォメーション
前号の「閉店する人が後悔する3つのこと」の記事はコチラ
//smiler.jp/2018/04/14/post-2942/

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