普通の努力しかしない経営者が 儲かるわけないだろ!

『繁盛店の作り方』みたいな本とか、セミナーのたぐいを妙にありがたがる経営者がいるけどね。

俺に言わせりゃ、そんな安易なノウハウとか、セオリーなんて、あるはずがないんだよ。その店が、なぜ繁盛したかなんて、永遠に分からないんだから。
だって、それが分かったらよ、次の店をやるときにも、同じことをやればいいんだろ? 次の店では、競争相手は変わるし、店に来る消費者も変わる。立地も変わる。以前と同じことをやったって、繁盛するわけがない。
この店は、こうして劇的に良くなったなんて話も、たいていは嘘っぱちだよ。経営とか、商売なんて、何か一つのことをやって劇的に良くなるような、そんな甘いもんじゃない。額に汗して、コツコツ、コツコツとやって、やっと少しずつ売上が増えてくる。そのときまでには、なぜ売上が増えたのか分からないくらい、いろんな手を打ってるはずなんだ。だから、こうしたら劇的に良くなるなんてことは、ないと思ったほうがいい。
ただ、逆のことは言えるんだよ。ダメになる店には、セオリーがあるな。もうセオリー通りに、劇的にダメになる店が多い。そういう店が、なぜダメになるのかは、知っておかないといけないな。

ダメな店の経営者は、簡単に言うと、ナマケモノなんだ。何の努力もしない、本物のナマケモノは論外だよ。俺が言うナマケモノってのは、普通の努力しかしない人間、普通に努力してれば稼げると勘違いしてる人間を、ひっくるめてナマケモノと言うんだ。

普通に努力して稼げないやつって、何が悪いんだろうか? ナマケモノほど、「自分は努力している」とよく言うんだよ。そのくせ、自分の店でやってる努力を、近隣の競争店と比べようとしない人が大部分なんだ。店の接客をいくら良くしたって、近隣の競争店のほうが接客が良かったら、お前の言ってる努力なんて、何の意味もないだろう〜よ。お前が努力しました、店の接客を良くしましたってのは、ただの一人よがりで、そんな努力で、お客様が増えるわけがない。当たり前のことだよ。
いやいや、当店では、去年よりも串を1割も増量したとか、別のナマケモノは、弁解するかも知れないな。じゃあ、ほかの店が2割、増量してたら、どうするんだ? 客はちっとも喜ばないし、そんな店に客が来るわけないだろ。

だから、俺たちのやってる商売の大原則は、「あなたがやってる努力は、近隣の店と比べて、ちょっとは勝ってるんですか?」というのを、きちんと測定することから始まるんだよ。ここの測定をしないもんだから、努力がムダになるし、見当違いになる。

測定のためには、覆面調査という手もあるし、もちろん、自分で食いに行ってもいい。家族に食いに行かせてもいい。いずれにしても、自分の店は、近隣の店と比べて勝っているかどうか、努力の方向が間違ってるか、間違ってないかを見極めないといかん。
そして、次に、何をするか。今度は、自分の店が儲かるか、儲からないかを測定することだ。客なんか、いくらたくさん来ても、赤字になってる店もある。いくら努力したって、赤字を垂れ流してる店になったら、何の意味もないだろ。だから、測定すべきなのは、2つだ。「あなたの店は、他店と比べて、ちょっとは勝ってるんですか。バリューはありますか」というのと、「財務的に、あなたの店は効率的な経営になっていますか」ということだ。財務なんて、あまり難しく考えなくても、例えば、人件費、家賃などの経費と全体の粗利を比べて、パーセンテージを出してみればいい。ここで注意しないといけないのは、人件費率、粗利率だけを見て、高い、低いと判断しないことだ。バカな経営者は、人件費率を下げたり、原価率を下げたりして、利益率を上げることばかり考えることが多い。率の問題じゃないんだよ。利益率が上がっても、他社と比べて、バリューが落ちるようでは何の意味もない。財務を見るときの、落とし穴だ。いかに他社に勝っているか、いかに儲かるか、両方を追求しないとダメだ。

 ムダな努力をしないためには、いつ店を閉めるかの期限を決めるというのも、大事な心得だ。現在の資金ならば、何とか3年は赤字でも持つと思ったら、3年間は続けると決めて、その間は、寝ずに頑張ればいい。

3年間やってもできなかったら、俺の力量では、この店は無理だったと、きっぱりあきらめる。あきらめられるくらい、自分を納得させるくらい、徹底して頑張ればいいだけのことだ。
こうして、努力して、何とか利益が出るようになったとする。どうやら、儲かる店になってきたようだ。そうなったときに、7〜8割の経営者は、困ったことに、ナマケモノになっちゃうんだよ。儲かり始めて3年もたたないうちに、努力をしなくなっちゃう。まず、店に出るのが遅くなり、店長任せになる。その上、資金もできてないのに、次の店の物件を見に行ったりする。物件を見ていると何だか、仕事っぽく見えるしな。あとは、経営者仲間とゴルフに行ったり、飯を食いに行ったりして、ステイタスクラブに入りたがるやつもいる。これが転落の第一歩だ。もう1つ、自分では努力をしてるつもりで、セミナーに行くやつもいるな。経営者が、セミナーに行ったり、資金もないのに、物件を見に行ったりするようになったら、その店はたちまちダメになるね。そりゃ、そうだろ? まだ1店舗や2店舗くらいの人が、セミナーになんか行ったって、ダメに決まってるよ。勉強なら、セミナーに行かずとも現場ですることが、山ほどあるんだから。
こうして8割がダメになっていく中で、ごく一部の人が、遠い夢を見て、さらに努力するんだな。3店舗出す、5店舗出す、10店舗出すという夢を見て、金を500万円、800万円と貯めて、次の店を作る。そういう努力ができる人間が、最終的に成功するんだ。

俺は、若い頃、努力をしたかって? そりゃあ、したに決まってるよ。だけど最初から、うまくいったわけじゃない。全然、ダメだった。

営業マンになって半年間は、何一つ、売れなかった。まったく売れないから、ホントに努力につぐ努力だよ。早寝早起き、長時間労働の繰り返し。最後は、もう思いあまって、日本全国にいるトップセールスマンと呼ばれる有名人に、片っ端から電話をかけて、カバン持ちをさせてもらった。
会社には休日をもらって、その休日を利用して、セールスの名人に現場に連れて行ってもらう。付いて行くと、「これか!」と何かが分かるよね。でも、分かったからって、自分ができるわけじゃない。セールスってのは、正確に伝えることじゃないんだ。熱情を持って、思いを伝えて、納得してもらう。それが非常に難しいんだ。
頭はいいけど、仕事のできないやつは、いくつになっても、正確に事実を伝えようとするんだよね。お客は、知的好奇心を満足したくて、話を聞いているわけじゃないから、「言いたいことは分かった。お前の言うことは事実だな。気分が悪いから、帰れ!」と、こう言われちゃう。
俺は、営業の名人に付いて回って、人間って、いかに言っていることが信用できないものなのかを体得したよ。朝一番で、手土産を持って先方に行って、ひたすら土下座する人もいた。「今月は、私としては珍しく、営業成績が苦しい」ということだけ相手に言って、手土産を渡す。相手の親父さんは、「春になったら買うと言ったじゃないか。いまは10月だから、買えないよ!」と言い捨てて、店頭の仕事をしに行っちゃう。主人が行っちゃうと、名人は、ぱっと土下座するんだ。
俺も、土下座しろって言われて、同じようにするんだけれども、まだ若くてバカだから、キョロキョロしてたら「動くんじゃない!」とか言われてね。

親父さんは、戻ってくると、「やめてくれよ。そんな見え透いたことは。俺がかっこ悪いじゃないか」と言う。そこで、こっちも、椅子に座り直す。「あんたの売上が苦しいなんて、俺には関係ないからね」。こう言って、親父さんがまた店先に行っちゃうと、名人はぱっと土下座する。それを繰り返して、最後には、「分かった。契約だけはするから」って話になっちゃった。「買わないよ」「関係ない」と言ってた人が、「契約だけはするから」に変わっちゃう。若い俺はびっくりした。俺は、製品の使用前、使用後みたいな詳細な資料を作って、持っていたんだけど、そんなもの何も役にたたなかった。事実や言葉なんか、どうでもいいんだよ。相手が納得するかどうかなんだから。
俺は、金沢の人、名古屋の人、静岡の人、宇都宮の人と、結果的に4人の名人のカバン持ちをしたけど、この22〜23歳のときに、現場で名人がやることを見て「これか!」と思ったことが、何とか自分でもできると確信できたのは、50歳を過ぎてからだった。それまでは、ひたすら練習、努力、試行錯誤だ。それを繰り返すうちに、人を納得させるためには、どういう状況で、どういう順番で何を説明すればいいのかが、ようやく少しずつ分かって来た。それぐらい、営業は難しいんだ。
経営だって同じように難しい。俺は今回、ステーキの「あさくま」を上場させるめどが立ったところで、ようやく自分も、経営者として実力があるんじゃないかと思えるようになってきた。だいたい3つくらい、会社を上場させたら、経営者は、自分に実力があると思っていいんじゃないかな。1つ目の上場は、だいたいまぐれだよ。2つ目になると、まぐれじゃないかも知れないが、まだ、まぐれかも知れないという疑いが残る。3つやれば、力があるんだと思っていい。

飲食店の経営で言うなら、やっぱり最低でも、3店舗は出して、それぞれに儲けを出せる形まで育て上げないと、一人前の経営者とは言えないだろうな。1店舗で儲かったってまぐれの場合が多い。2店舗、3店舗やって儲かる店をつくり、競争店に勝つために、コツコツと、汗をかいて、人に抜きんでた努力をすることで一人前の経営者に近づく。

Smiler vol.19 森下篤史の店長教育