価値ある人生とは

中土井 森下さんのいう「価値ある人生」とはどのようなものなのですか。
森下 目標を持たず、自分で意思決定もせずに、毎日同じように指示されたことをその通りにやるのでは、囚人の生活と同じようなものです。社員たちには、そんな生き方をさせたくないんです。もし、そんな生き方をしている社員がいたら、それでいいのかと問いたくなりますね。自分で決めた目標に向かって仕事をして、理想の明日を作るために、今日何をするかを考えて行動することが、人間として生きている価値になるという考えなんです。
会社という舞台で、いかに踊るかは社員の自由。自分でどうなりたいのかを考え抜き、目標を設定すると、行動が明らかに変わってきます。目標をどこに設定するかで、やるべきことは全く変わってきます。
人間の尊厳はどこから生まれるのかと考えてみると、「明日(未来)があるかどうか」ということに行き着きます。動物には、目の前の「今」があるだけです。明日のことを考えて今を生きているのは、人間だけなんです。それなのに、意思決定することを放棄し、自覚のないまま動物の生き方をしている人がたくさんいます。せめて社員には自分の考えに基づいて目標を持ち、人間としての価値ある生き方をしてほしいので、それを後押しする仕組み作りを目指してきました。私たちの会社のユニークな人事制度はこういった考えから生まれています。
中土井 テンポスバスターズの制度で話題になった「社長の椅子争奪戦」も社員が活躍できる場作りの一環なんですね。
森下 テンポスバスターズでは、店長などの職種も立候補制にしています。職種だけでなく、勤務地を決めるのも、他の職種へ移るのも自分で決めます。しかし、社長はいつまでたっても変わらずに社長のまま。それでは面白くないと、社長の座も立候補制にして争奪戦にすることにしたんです。
新たに社員を採用したときも、配属決定会をして、まず社員自身に配属先を選んでもらうようにしています。配属決定会では、子会社の社長や事業部長、店長など約60人が集まり、彼らが自分の会社や店舗についてプレゼンをし、社員たちに選んでもらえるようアピールします。そのプレゼンを受け、社員は配属先を選び、その場で面接が始まります。配属先が60もあると、社員を採用できないところも出てくるので、採用される側よりも、採用する側の方が喜んでいたりするんですよ。
配属後、1年以上在籍すると、FA宣言をして、他のところへ移ることもできます。受け入れる側も1年が経過したら、社員をクビにすることができます。クビにされた社員は他の配属先へ移ることになります。ただ、初めからその人に適した職場であることなんてほぼないですし、都合よく求めている人材が来ることもありません。世の中、それが普通ですよね。
職場を選んだり、人を選んだりを繰り返しても、結局自分自身も努力しなければ満足することはないと気付くときがくるでしょう。他人にいわれても分かることではないので、自分で気付くまでは、自分の思う通りにFA宣言やクビ宣言をしていいとしているんです。無意味に移動を繰り返すとしても、自分で決めていることだから、それでいいとしています。私たちはいつも「自分で決めているか」ということを重要視しています。