教えたって意味がないことがわかった

テンポスが、「ステーキのあさくま」(以下、あさくま)と資本・業務提携し、経営再建に乗り出したのは今から9年前、2006年のことだ。当時の俺は、飲食店経営の素人だったから、関連の本をずいぶんたくさん読んだ。そういう本に決まって書かれていたのが、「現場の店長を経営に参画させる」という手法だった。それを信じた俺は、店長を積極的に経営に参画させるべく、30店舗ほどあった個々の店ごとに、店長から改善点を書き出させることにした。

あさくまは、1948年に愛知県で創業された老舗のステーキ店だ。70年代の終わりから関東にも進出し、80年代には、つくば科学万博に出店するなどして、日の出の勢いで店舗数を増やした。全盛期の年商は185億円、140店舗にも達している。ところが、バブル崩壊後の10数年の間に、売上が急速に減少し、多くの店舗が閉店に追い込まれた。テンポスと資本・業務提携したときには年商28億円、債務超過、30店舗にまで落ち込み、経常収支でも年間2800万円もの赤字を出して、倒産寸前だった。

そういう会社の店長たちを、俺は経営に参画させようとして1年間、頑張ったんだ。改善すべき具体的な点は、店ごとに違うはずだ。だから、商品とか、サービスとか衛生管理とか、7つほどの大きな項目を立てて、店長たちには、その7項目それぞれについて、当面の1カ月間でやるべきことは何かを書き出させた。パーソナルシートという名前を付けてね。

ところが、ほとんどの店長たちは、「お客様にまた来ていただけるような顧客満足度の高い店を作る」みたいなことを書いてくる。当面の1カ月間で、何をやるべきかを聞いているのに、顧客満足なんて抽象的なことを書いてもダメだ。そう言ったら、「明るい店にする」と書いてくる。これもダメだ。明るい店って、何をすれば明るい店になるのかまで、具体的に書かなければ話にならない。
お客さんが来たら入り口に聞こえるような声で「いらっしゃいませ」という練習をさせる。
これなら解る
明るい店にするなんてったって、何をするのかサッパリ判らぬ
何をするか判りやすく書き出すことだ。
何回も書き直しさせて、翌月の店長会議でも、半日くらいを費やした。
1年かけて具体的に書く練習をさせた。
ところが、
何をやるかが明確になっただけで、やる店長はいなかった。
引き継いだとき、売り上げ前年比92%だったのが、97%になった。
相変わらず100%を割っていた。
理屈を教えたって、やらなければダメだ。
我々は、実務家なんだ。
分かったからってやりぁしない。やらせなければ意味もない。
分からせることでなく、やらせる仕組みと、練習をさせなければいけない。