ひたむきと愚直

ひたむき、愚直、真摯
打算的な俺にとって、「ひたむき」は憧れる言葉だ。
かと言って、戦略のない経営者は、間抜けなだけだ。
経営ゲームの達人になるために、知恵を使い、経験を重ねている。
市場競争の中では、常に競争相手は誰か
競争相手は、どんな手を打っているか、どんな手を打とうとしているか。
客の望んでいるものは、アンケートや、客に聞けば分かるのだろうか
社員が辞めるといってきた。何か訴えたいことがあるのではないか。
他社に取られてしまいました。と言われて「そうですか」って訳にはいかない。
本当に取られてしまったのか。その判断に間違いはないか。
手遅れなのか、今から打つ手はないか。

毎日報告の中の真実を見抜き、裏を考え「愚直、ひたむき」とは程遠い生活をしている。

15年前、50過ぎた友達が上場会社の常務になって3ヶ月もしないうちに脳梗塞になった。
若い頃、職場対抗のソフトボールをやった時、走るのは早いし、撃てば、かっ飛ばす。
何よりすごいのは、レフトの守備。
打者が撃つか、撃ったかくらいのときに走り出す。
まるで球がくる事を分かってて走り出しているようだった。
凄いなあよりも、憧れを感じた。
仕事もそいつに負けないようにと思ってた。
そいつが脳梗塞になり
手足が動かないばかりか、口もきけない。
女房が付いていて、ヨダレをしょちゅう拭いてやっいた。
車椅子の彼は、俺の言うことは分かると見えて、瞼で合図をしてよこす。
悲惨で長い時間は其処にいることができなかった。

半年以上たって、彼の見舞いに行くと、リハビリ中であった。
相変わらず口は利けなかったが、妻の話によると、7~8歩は歩けるようになったそうだ。
俺と目があって何かを言ったが、ワオワオ言うだけで意味不明。
又歩こうとし始めた。
物凄い形相で、時間をかけてヤット一歩が出る。
2~3歩進むのに汗ビッショリ。
みている方が辛くなる。
そう言えば俺もヘルニアがひどくなった時、20歩もないトイレまで壁づたいに5分、ズボンを下ろすのに5分、動作をするたびに痛すぎで、漏らした方がいいと思えるくらいだった。
奴の形相はそれ以上。
医師の指導を無視して、ベッドの脇でもやっている。
3時間以上毎日やるらしい。

スプーンも何とか掴めるようになり、自分で食い物を口に入れようとするから、食べるのも必死に1時間以上かかる。

キット心の中に目標があって、達成するたびに次の目標を作る。
奴は仕事もそうだった。
大目標を口にしないで、小さな目標を俺に告げる。恥ずかしそうに。
黙々とやる奴だった。

奴をみていると、障害者と言うより「アスリート」!
森下!頑張ってるか!と言ってるようで、
えらいことになってしまって可哀想に、などと言う不遜な感情は吹き飛んでしまい、
むしろ五体満足な俺の生活が、自堕落じゃないかと思えるようであった。

戦略などと言ってひたむきになれないと、言い訳をしているだけで、自分が「まっこれでいいか」と手を抜いた時に、奴の形相と汗を思い出す

「ひたむき、愚直、真摯」
憧れる言葉